Scribble at 2025-09-03 11:09:15 Last modified: 2025-09-04 07:25:10

松坂和夫氏のテキストは、数学の教科書としては読みやすくて優れたものが多いと思うのだが、以前も指摘したように最初から最後まで問題なく彼のテキストを通読できるわけではなく、引っかかるところもある。

たとえば、以前も書いたことだが、彼の『線型代数入門』(岩波書店、1980)の93ページで導入される、行ベクトルを縦に並べた表記を「行ベクトル表示」と呼んでいるのだが、ビジュアルだけで言えば列ベクトルのように見えるので、これは混乱しやすい。というか、僕はこれはどうにも混乱して扱いづらいので、この「行ベクトル表示」という語句が出てくる箇所は、全て「行ベクトルをまとめた記号を1列に並べた表示」と書き換えてノートをとってきた。実際、これは m x n 行列を行の単位でまとめて表示しているだけのことなので、列として扱う利便性がなければ(あるいは無理にこのような表記方法を使う理由がなければ)無視しても良いことだ。行列なんて、しょせんは数のまとまりをひとまとめにして足したりスカラーで掛けたりする演算ができる保証のある空間(構造)というだけのことだから、行ベクトルを更にまとめてしまっても、具体的な演算に支障が生じない限りは、どう表記しなおしても構わない。ということは、逆にそういう表記を無理に使わずに、m x n ベクトルなら行と列をそのまま表記して演算してもいいわけだし、具体的な演算はそのようにせざるをえない(実際、パソコンのグラフィック・カードはそう動作する他にない)。

そもそも、僕は行列を「m x n」などと表記すること自体が誤解をまねくと考えているので、僕が実際に作って使っている線型代数のノートに、「m x n 行列」などという記述はない。すべて「m行n列の行列」という具合に面倒でも書いている。なぜなら、「x」などという記号を使われると、僕はどうしても → ↓ という順番でものを数える習慣があるので、m を行ではなく列の数として扱おうとしてしまい、n を列ではなく行の数として扱おうとしてしまうのを、いちいち心のなかで補正しながら本を読んでいることが多いからだ。もちろん、→ を「数える向き(列)」ではなく、「数が並んでいる向き(行)」だと捉え直せば、「m x n」が行と列であるという説明にも一定の説得力はあるわけだが、どうにも思考の習慣というものは、視覚的なバイアスが組み合わさっていればなおさら、簡単には補正できないし、そもそも補正する必要があるとも思えないわけである。寧ろ「m x n」という表記を僕の理解に従って「m行n列」と書き換えても同じことなので、自分自身にとって誤解の少ない表記を採用する方がよい。

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