Scribble at 2025-06-04 17:20:32 Last modified: 2025-06-04 17:22:08

僕自身がストレートのカミソリを使い始めて色々と調べていた時期は、もちろん僕にとっては新しく知ることが多くて、いまでも実感は変わらないのだけれど、随分と奥深いものだと思っている。理容師の教科書でも多くのページを割いている専門的な技法でもあり、またスキン・ケアとして誰もが気にして良い衛生上の話題も多く関わることに加えて、やはり歴史も長くて色々な機器や材料が発達してきたという経緯もある。いまでこそ、カートリッジの安全カミソリや電気シェーバで、中学生でも簡単かつ安全に髭が剃れる時代となったわけだが、それでもカミソリを使ったシェーヴィングの良さは独特な趣味や技能として、理容師だけでなく一般のカミソリ・ユーザにも残ると思うし、残って良いことだと思う。

しかしながら、シェーヴィングについてのリソースは専門の技能をもつ理容師どころかカミソリや刃のメーカーですら殆ど情報を発信していないことに加えて、一般のユーザもアメリカほどには数がいなくて世代層も薄いらしく、なかなか日本語のまともなコンテンツは増えていない。もちろん、ウェブのコンテンツというものは、しょせんどこかでマネタイズや地位・名声につながるような利得がなければ増えていかないものであり、たとえばストレートのカミソリや安全カミソリについて「なんとか協会」や「これこれユーザ会」のような団体が作られて、ヘゲモニーの掌握合戦や組織内部での政治闘争の結果、それなりの社会的な地位だとか、理容師や器具メーカーとの関係だとかが保証されないと、こういう分野で積極的に情報を発信したり何事か一つの趣味として熱を入れようなんて人は、なかなか出てこないのかもしれない。あるいは、資格団体を立ち上げて「カミソリ検定」みたいなもので小銭をかき集めるとか。しょせん、凡人が考える「情報」の取り扱いなんてものは、学識も経験も情報処理能力もない大多数の凡人においては、色々とものを調べる時間という手間暇だけが武器なので、そういうことにコミットするに値する報酬や利益が見込めなければ誰も手を付けないわけである。

が、そういうことであろうとお構いなしに面白そうなことを馬鹿みたいに詳しく調べるのが、本来のマニアであったはずなのだが、昨今は「おたく」などという劣化した人々しか趣味人としてのスタイルがないかのような偏見がマスコミによってばらまかれているせいで、結局のところマネタイズか、女にもてるか、何かの評論家としてメディアでものを書くようになるか、おたくの団体でヘゲモニーを掌握するといった自己承認欲求が満たされるか、あるいは何らかの得がなければコミットしない若者が大半を占めるようになり、これはいかにもこの国が貧しい文化的な二流国家になりつつある証拠ではないかと思う。

だが、やはり僕は専門職の理容師がプロとしての情報発信について、かなり不甲斐ないと思っている。YouTube でも、いっときは多くの動画を発信していて、僕も多くを学んだ足立区の理容師も、かねてから宣言していたことではあるが、いまやシェービングではなく雑談を配信するだけである。また、彼がシェービングについて日本を代表する YouTuber などと紹介していた人物もいるが、はっきり言って過大評価も甚だしいと言わざるを得ない情報発信力のなさと技能の低さである。まだストレートの剃刀を使い始めて2年ほどしか経っていない僕のほうが技能はある(実際、僕は理容師の国家試験用の教科書を手に入れたりして練習しているのだから、当然だろう)。おまけに、これらの人々は既に何年も前から髭剃りに関連する動画を配信しなくなっており、つまりは YouTuber ですらなくなっているわけだ。

ただ、大状況を見ていると、仕方のないところはある。なぜなら、そもそも電気シェーバやカートリッジの安全カミソリを使わずにストレートの剃刀で剃る人なんて、殆どいないからだ。アメリカですら、専門用具(剃刀の器具だけでなく関連するスキン・ケア用品など)の店が続々とオンラインからも、そして実店舗でも閉店していて、シェービング業界について語っているポッドキャストを聴いていても、その状況は深刻であると語られている。恐らく、「本当のストレート剃刀」を製造しているゾーリンゲンの会社も、その多くが剃刀の製造から撤退していくであろう。こういう中で、いくらストレートの剃刀を使うシェービングについてサイトを作ったり YouTube のチャネルを開設したりポッドキャストを配信しても、かなり状況は苦しい。僕の見立てでは、僕がストレートの剃刀に関心をもち始めた2年前には、とっくに wet shaving のブーム(映画などで使われていたので、確かにブームはあったようだ)は終わっていて、僕が YouTube などで眺めていた動画は残り火のようなものだったのだろう。

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