Scribble at 2024-07-26 17:38:15 Last modified: 2024-07-28 19:20:21
小川は意気込む。「人手が余っていた時代に江副(浩正)さんが、学生起業家としてリクルートを作った。人手不足というパラダイムシフトが起きた令和にタイミーが生まれた。リクルートの求人マッチングでなく、タイミーはオンデマンドでHR(人材領域)を制覇したい。ワクワクしている」。
弊社も求人サービスを展開しているのだが、こうやって後続の企業にあっという間に抜かされて上場まで行かれてしまうというパターンを見てきて、やはりネット・ベンチャーとして大切なことがあるのとないのとでは大きな違いがあるなと痛感させられる。これはもちろん弊社としての反省でもあるけれど、たぶん一般論としても言える筈だ。
第一に、既存の取引関係や牽制的な事情に引きずられない発想があるということ。これは、もちろん多くの場合にリバタリアンの小僧が得意としているので、スペクトラムの「あっちがわ」の人しかできないかのように思われているが、そんなことはない。法律を軽視したり無視する人間にしかイノベーションを起こせないなんていうのは、はっきり言って経営学や経営コンサルの結果論であって、とりわけネット・ベンチャーしか見ていない視野狭窄の人間による錯覚だ。確かに、上のコメントが示しているように、他人の生活や仕事のことなどそっちのけで「市場を制覇する」なんていうモチベーションだけで事業を「デザイン」するなんてのは、スペクトラムの「あっちがわ」にいる人々に特有の思考ではあるが、それだけで異常だの病的だのと言えるわけではないし、結果的に彼らは「勝ち」を収めているのだから、ビジネスとしてわれわれ企業人が文句を言える立場にはない。これはこれで一つの業績だし、勝利なのである。
第二に、やはり起業した人間が自分自身で、あるいは社内に開発体制をもっているかどうかが鍵になる。たとえば開発のスピードだとか、あるいは設計と実装とでコミュニケーション・ミスが起きにくいとか、それから開発しているあいだのコストだとか、色々な点で社内の開発は有利である。起業した本人が小さなアプリを手掛けるところからスタートしている場合は、自分で開発するのだから、そのコストの低さは(本人が徹夜を繰り返せばいいというわけでもないが)明白だ。やはり、自社のサービスを外注に放り投げて作ってもらって上場したベンチャーなんてのは、あまりない事例だし、どうしても委託先には開発に携わっているサービスについての当事者意識が欠けてしまうわけなので、色々な品質についてもどこか限界があろうと思う。
それから第三に、集中した投資だ。殆どのベンチャー企業というのは、その事業を構築し開始して運用していくために資金を集めるわけであって、実は投資の配分もクソもない。販管費のようなバック・オフィスの費用を除けば、ベンチャーの財務なんて 100% が新規事業の開発や運用に充てるに決まっているのだ。それが、最初に色々な手練手管や企画書でかき集めてフリーハンドな「運転資金」というやつを得てから事業を考えるという逆向きの発想があると、どうしても資金の配分という、実はベンチャーとしておかしい思考になりかねない。これは、そもそも会社としての運転資金を集めるという目的が先にあって、そこで融資してもらうための名目として適当な事業を出鱈目に思いつきでひねり出すということをやっているから本末転倒なことを続ける他になくなるわけである。イージーなアイデアで助成金を先にもらって始めるようなベンチャーだと、得てしてこういう思考になりやすい。あと、たいていのネット・ベンチャーって集めた資金なり融資で借りたお金は、開発つまりエンジニアの人件費に使うものであって、営業なんかに使うのは、出鱈目に作ったシステムを口先だけで売りさばこうという広告代理店や営業代理店の押し売りの発想で事業をやるからだ。そういう人たちというのは、実は世の中にリリースしたいサービスなんてアイデアを全く持たずに会社を始めてるような気がする。つまり、金持ちになるとか、社長になるとか、上場企業の CEO として証券会社で鐘を叩きたいとか、自意識だけが動機なんだ。やはりそれではまともなサービスというのはなかなか作れないし、考案できもしないと思う。