Scribble at 2024-06-02 19:06:07 Last modified: 2024-06-04 18:37:12
まだテキストの版下は準備していないのだが、フォントは「UDデジタル教科書体」を利用する。僕自身が老眼となって、従来のフォントでは判読しづらい場合があるからだ(もともとは AXIS を採用するつもりだった)。制作している当人が読めない版下なんてナンセンスだろう。
なお、特に明言はしていなかったのだが、僕が制作を計画している科学哲学のテキストは、ディスレクシアの人が読みやすいことを中間目標に作る。そして、こういう中間目標の設定について、お涙頂戴の三流ジャーナリスト、あるいは日本の福祉・差別系の社会学者によくある、センチメンタリズムやパターナリズムと混同してもらっては困るので、僕はこれを話題にしてこなかった。これは善意とか、あるいは田舎東京人の「やさしさ」などとは関係のない全く合理的な選択であって、ディスレクシアの読者をいちおうの基準(中間目標)にすれば、もっと多くの読者にとっても現実に視認しやすい紙面・版面になると期待できるからでしかない。そして、もちろんその「読者」の中には、老眼である僕自身も含まれるのだ。要するに、僕自身が読みやすいようにも作るという大方針の中に障害者への合理的な配慮が含まれるというだけのことだ。
そして、「UDデジタル教科書体」にはウェイトの R や B が Windows 10 や 11 には最初から入っているという大きな利点もある。これを版面の専用フォントとして購入するとなると、ウェイトが二つで4万円の費用がかかるので、最初から二つのフォントが使えるのはありがたい。ただし、これらの書体には欧文体が欠けていると思うから、それらを他のフォントとの「合成フォント」として InDesign に設定しなくてはいけない。ということで、その欧文体をどのフォントにするかを、いまのところ似たような柔らかいタッチの書体にするか、あるいは欧文体であることを区別するために、やや違った書体にするかを思案している。Dyslexie とか、OpenDyslexic とか、いくつかある。
それから、僕自身は特に何かの障害があるとは感じていないけれど、学習障害として説明される状況の幾つかは実感があって理解できるところがある。たとえば、僕は記憶力が非常に弱いという自覚があり、たとえば英単語を覚えるといったことをやるにしても、とにかく何回も復習なり反復しないと覚えられない。きみら灘や開成出身の東大暗記小僧のように、1週間で英和辞典をマスターしましたとか、『哲学探究』を数日で暗唱できるようになったよとか、あるいは自然対数や三角関数の表を頭に入れてるから数学の公式集を持ち歩く必要がないといった直感映像記憶の能力はない。
それから、学習障害とまでは言えなくても disadvantage だとは言える特徴として、僕自身の書くものだって理路整然としているわけではないものの、とにかく筋の通らない記述をされると、そこで理解が止まってしまうことがある。ここでは何度も書いた話だが、これから何十ページも後で定義する概念を冒頭のページに平気で使う数学者のテキストとか、そういうものを読まされると急激に読む意欲がなくなって、要するに同じトピックの他の本を買おうとしてしまう。初等的な記号論理学のテキストを国内外問わず何十冊も持っているのは、実際のところそれが理由なのである。ちなみに、それらから学んだ内容も僕のテキストに含めるので、それがきちんと完成したら、まず僕自身こそが、未熟な文章構成の論理学の教科書を二度と読まされずに済むという期待がもてるのだ。