Scribble at 2024-02-05 22:44:58 Last modified: 2024-02-06 07:11:24

仮に、或る遺跡、いや日本全国の地中について、その地質から埋蔵物など全ての情報を分子レベルでスキャンしたり復元できる技術が開発されたら、どんな遺跡であろうと破壊して土地を開発していいと言えるだろうか。恐らく、それは技術的に可能だとしても、別の脈絡では不見識であり無礼だと言いうる。

このところ考古学を学んでいた頃の話を何度か書いていて、もちろん何度か名前を出しているため、考古学のプロパーから見れば「こいつは『森派』か!」ということになるのだろう。もちろん、森先生は(科学哲学でボスだった森先生とは違って)読者にファンは多かったし、著名な人々とも交流があったけれど、学内では「敵」の多い人でもあった。さほど知られていないが、考古学は他の分野と比べても学閥が強いと言える。学閥が異なると、著書や論文で引用するどころか、学説として存在することすら無視されて大学生のテキストが作られるほどだったりする。よって、実は学部レベルまでしか考古学を学んでいない人の多くは、一部の学説を全く知らないという人が意外に多いため、僕は考古学のアマチュア、とりわけ学部レベルでしか勉強せずに、あとは「大学で学んだ」という経験だけで考古学を語っているようなアマチュアを、原則として信用していない。もちろん、科学哲学にも緩やかにそういうグループ意識みたいなものが(東西で)あるのは知っているが、考古学ほど酷くはない。ふだんは「特段の有名な業績がないことに加えて、名字に同じ漢字を使う教員が多すぎて、区別がつかない」と、大井川から東の地方で科学哲学を教えている重鎮すら揶揄する言い方をするが、必要に応じて彼らの成果に学ぶことは多いし、もちろん黙殺などしない。僕のような哲学者に無視されるのは、くだらない俗書ばかり書いているからであって、まともな研究書を書いていれば、無礼を承知で言うが野本和幸氏のように僕に名前を覚えてもらえるのだ。そういや、他に「野」って漢字を使う分析哲学や科学哲学のプロパーって、関東圏に何人くらいいるんだろう。EXILE のメンバーと同じくらいいるんじゃないか?

くだらない話はいい。ともかく、考古学の学閥はいまだに酷いものがあるらしく、最近の著作物を読んでいてすら、明らかに高度な業績だと思える著作物が全く無視されていたりする。たとえば、横穴式石室については河内長野の太田宏明氏の成果を無視してよい筈もないと思うが、古墳時代について書かれた多くの著作では軽視されている。たぶん、その理由は簡単で、『横穴式石室と古墳時代社会』のような彼の著作では他の社会科学の分析手法やモデルを導入しているからだ。そして考古学という分野は、昔からこの手の考古学という学問そのものに対する縄張り根性が強く残っていて、森先生の更に前の世代にあたる末永雅雄先生(手紙を出して教えを受けていたこともあるので、この方も僕の基準では「先生」である)が古墳の外形的な分析に数理的な手法(たとえば上田宏範氏の成果など)を認めるような発言をしたときでも、殆ど真面目に取り上げようとする研究者は多くなかった。よって、この手の分析は皮肉なことに発掘調査や遺物のトレースを担っている、地方自治体の下請け企業が圧倒的な知識や技術力を持っていて、かたや大学教授なんて言っても外形的な解析どころか土器をトレースする技巧すら学ばずに(僕ですら中学時代に、枚方市の交北城ノ山遺跡の発掘現場で叩き込まれた経験がある)、膨大な数の調査報告書を読むだけの AI みたいな連中が続々と程度の低い空想を重ねる読み物を「学術書」として出版したり、あるいは多くのテーマで定説がないのをいいことに真実のなんとか時代だの考古学の定説を覆すだの、あるいは自分のイデオロギーを下敷きにしただけの小説まがいを学説と称し、暇と金だけはある連中を相手に続々とクズみたいな本を量産している(ちなみに、ここではネトウヨが書いてる本なんて最初からお呼びじゃないんで、彼らのことを言っているわけではない)。

僕は、いちおうそういう学閥とは無縁であるから、「森派」などと思われようと小林行雄氏や近藤義郎氏の著作にも学んでいる(そういや、どちらも岩波学者だな)。ただ、残念なことにそういうスタンスでやっているのがアマチュアと、それから行政職員くらいであって、アマチュアには利用できるリソースに限界があることや、そもそも専門的な勉強や経験が不足しているという限界がある。かたや、行政職員の多くはさきほどの太田氏のように学識は十分でありながら、今度は行政職員というだけでアマチュアと同列に扱う大学教授様とかがいっぱいいるわけだ、この国は。

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