Scribble at 2023-11-27 16:40:58 Last modified: 2023-11-27 16:48:52
うちの会社にも営業メールが届いてたんだけど、10年くらい前にもオンライン・サービスで似たような事例を見かけたことがある企画で、社員同士でポイントだのチャットの「いいね」だのを投げあうというのがある。でも、これは三流の経営コンサルが何十年も前から「発明」しては消えていったネタにすぎない。
ネット・サービスを考えついてテンプレの営業メールをせっせと送ってきたりする若造は知らんだろうけど、それこそ社員同士で「感謝の気持ち」だの物品だのを送り合うというアイデアには、何十年の(失敗の)歴史がある。昭和の頃は、もちろん「いいね」だの社内専用通貨だのは存在しなかったけれど、ガム1枚とか、ビール券とか図書券とか、そういうので社員どうしのやりとりを通じて士気を高めるなどとやってたわけ。でも、オンライン版で何か新しい福利厚生でも考案したつもりのガキのコンサルなんて生存バイアスでしかものを見ていないので、失敗したマネジメント手法の知識や情報なんてもっていないのだ。経営学のプロパーですら、そんなもんいちいち論文とか雑誌の記事にでも書かれていなければ覚えていまい。
そして、このところバカなコンサルがこの手のアイデアを「心理的安全性」だと抜かしては、最新のモチベーション・マネジメントであるかのように宣伝してるんだけど、これは夥しいバリエーションがこれまでに失敗してきたという歴史を積み重ねてきた愚行なのである。みなさんの会社で、こんなものを導入しようとする人がいたら、必ず止めなくてはいけない。そもそも心理的安全性なんて、実は社会心理学の用語でも経営学の用語でもなんでもない、マーケティングを研究している経営学者が勝手に言い始めた「独自研究」のスローガンにすぎないのである。
これと似たようなこととして、社員同士ではなくとも会社が実施する施策として社内表彰というのがよくある。でも、これも多くの企業では逆効果だったとして、導入しても数年でやめているところが多いのだ。一見すると、みんなで褒めあったり会社から褒められるのは良いことに思えるが、どうしていけないのだろうか。
それは、まったく簡単な話である。会社員というものは、同僚からだろうと会社からだろうと、褒められるために業務に携わっているわけではないからだ。逆に、そんなことが些細でも業務遂行にあたって影響を及ぼすことは、短期的には何か良く見えても、長期的には重大な非効率をもたらすのが大半だ。そして、特に褒めてほしい上司の業務を優先したり、もちろん下心がある連中は別の目的で業務プロセスを捻じ曲げるかもしれない。このように、本来の業務の目的とは違う要因が加わることで、だいたいどこの会社でも人間関係が複雑になるという結果になるようだし、もっと悪ければ互いにいらぬ誤解が生じたりして、逆に社員同士の疑心暗鬼や不信感などが増幅してしまう場合もある。
これは、いわゆる社内表彰でも似たような事実がある。たとえば、営業でよくある「売上ランキング」みたいなものを導入すると、たいていの会社では強引な勧誘、親族を巻き込んだ一過性でスキルと関係ない売上、空伝票、詐欺といったものが横行することになる。当然だが、ランキングで低い順位を続ける人はパワハラの対象になりやすいし、無理をして体調を壊したり鬱病になったり、あるいは「遺族」が労災認定を求めて裁判を起こすようなことになってきたのは、報道で誰もが知るところだ。
そして、この手の社内表彰に問題があるのは、たいてい売上とかプロフィットの成績だけで導入しようとするため、僕自身がバック・オフィスでもプロフィットの部署でも仕事をしてきた人間だからわかることなのだが、売上なんていう基準では絶対に表彰されない管理系のスタッフのモチベーションが下がってしまうのである。そして、会社の経営において効率が下がると劇的な影響があるのは、もちろん営業やデザイナーなんかではなくバック・オフィスだ。弊社の事例で恐縮だが、どれだけバック・オフィスのスタッフが誠実かつ適正に仕事しても、ポーターの講演会を聴きに東京へ出張したり、電通の営業マンとサバゲーするためのモデルガンを買ったりするような「お小遣い」はもらえないわけである。そもそも、管理系のスタッフは10年働く社員でも基本給からして新卒のウェブ・ディレクターにすら及ばない。これでは会社の実質的な機能が低下するのは当たり前である。よって、弊社でそういう制度を撤廃し、社内表彰のような制度を持ち込もうとする発案に経営会議が抵抗しているのは、全く正しいことなのである。そもそも、給料や既存の福利厚生で満足できない人間が、そういうことを言い出すわけで、それはつまり不満があるということだ。そんな人間は、どのみち社内表彰制度なんて導入しても遅かれ早かれもっと別の欲求が出てきて退職する可能性が高いのである。