Scribble at 2023-09-07 08:28:28 Last modified: 2023-09-10 20:06:53

添付画像

今年の6月は殆ど1ヶ月をかけて、或る北陸の街にある自動車教習所のサイトを全面リニューアルしていた。こんなケチな案件は NDA なんぞないので書いてしまうと、会社として受けた予算は70万円で、ページ数は約50ページ、WordPress をベースにして、問い合わせフォームが3種類ある。簡単に言えば、最初から赤字と分かっている事案だ。

どうして赤字なのかを、MarkupDancing へアクセスする人ならともかく、こちらの哲学のサイトへアクセスする人には分からない方が多いと思うので、少し詳しく説明しておこう。いくら僕が赤い彗星なんぞ屁でもない常人の5倍を超える生産性を誇っているとは言っても、企業の部長を拝命して他に数々の職責を負っている人間が、ウェブサイトの制作に1日の工数を全て振り分けるわけがない。まぁ多くても1日に使えるのは1時間か2時間が限界だ(逆に、こんなロクに儲けも出ない案件に1日あたり5時間も6時間も使えるなら、普段のあんたは部長やエンジニアや Chief Privacy Officer として何やってるんだという話になる)。ということで、工数を見積もると30時間ていどと試算したのだが、あいにく僕は(電通案件なら)情報設計、ユーザビリティ・テスト、サーバの構築、プログラミング、そしてページのコーディングに加えてビジュアル・デザインや個人情報保護方針の文面起案までできる人材、つまり「フルスタック」とか「DevOps」などという半端な兼業を大きく凌駕する、1人日8万円の費用がかかるスーパー IT 人材なので、70万円が予算なら10人日ていどしか携われない(それでも、僕の工数だけの話だ。ディレクション・フィーなどの付帯費用を加味できないという点でも、既に赤字案件だと分かる)。そして、それは1日に8時間をまるまる使っての話だが、実際には1日に2時間ずつ使うとなると、所要日数は4倍の40日(40「人日」ではなく)ということになる。つまり2ヶ月近くということだ(就労日数だから、あたりまえだが1ヶ月は30日ではなく22日ていど)。50ページのサイトをコーディングやデザインも含めて10人日でやるというのは、いくら僕でも無理がある。よって、工期を考えるまでもなく赤字だと分かる。

・・・というのは、あくまでも見積もり段階の話である。電通案件に20年近くも関わってきた人間が、正味の工数で見積もりなんて出すわけがないから、実際には6月中に大半の作業が終わったのだけれど、納品ないしリニューアルは7月の中旬であった。理由は、この手の案件なら昔から誰でも経験していると思うが、クライアントの決断や指示が遅いからである。キー・ビジュアルの巨大な写真をフォト・ストック・サービスから購入して支給すると言われてから、実際に写真が支給されるまでに3週間くらいかかっている。また、サイトのあちらこちらで使う教習所の車や施設の写真を替えたいと言いながら、その写真はファイル・スタンプを見ると7月になってから急いで撮影されたものだったりする。ともあれ、退職する社員が最後に(デタラメに)受けた案件なので、企業として受注したからには対応しなくてはならないから、それなりに僕のデザイナーとしての才能も 1/10 ていどは使って、サイトの設定も WordPress のセキュリティについては自分のサイトで記事を書いているくらいだから、一通りのことはやって納品したわけである。

で、納品してから二ヶ月くらいが経過して、さきほど何気なく教習所のサイトへアクセスしてみると・・・ここでやっと冒頭に添付した画像の話になるのだが、早くもサイトのロゴ・マークが変更されている。サイトの工期もそこそこに、自分たちで後から「この書体を使ってくれ」と指定しておきながら、二ヶ月もしないうちに違う書体へ差し替えてしまっている。もちろん、納品した後に何をしようと勝手だが、こういうところにも中小企業のウェブサイト制作や運営が計画性のない場当たり的なものであることがうかがえる。僕は MD では幾つかの論説で、もちろん制作や運営のプロとして「ウェブサイトの運営は事業所を一つ運営するのと同じである」と力説しているのだが、いつまで経っても多くの事業者はウェブサイトというものを手の込んだバナー広告ていどにしか思っていないらしい。それゆえ、思いつきでいくらでもいじくり回して、その効果も測定しない。デザインに方針も基準もない。まともな予算も設定しないし、必要なら融資を受けてまで構築したり運営してもいい投資の対象であるという理解もない。これでは役に立たないのが当たり前である。

もちろん、僕らもそういうことは分かっているので、どうだっていいことには積極的に手を抜く。そもそも赤字案件だから当然なのだが、たとえば上のロゴ・マークで左端には自動車のアイコンを置いているのだが、これは生成 AI で出力したものだ。念のため、既存のロゴ・マークをそのまま出力していないかどうかを後から画像検索でチェックしているが、このていどのマークなんて似た意匠はいくらでもある。ともあれ、出力した画像はラスター・データなので、これを Photoshop でベクター画像に直してから Illustrator で読み込み直して、最終出力はページ内でサイズを変えられるように SVG とした(Photoshop は SVG 形式で出力できない)。赤字案件と分かっていても、手を抜くと言いながら、この程度の手間はかけているのだ。

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