Scribble at 2023-09-02 09:31:23 Last modified: unmodified

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Without maintenance, most digital information will be lost in just a few decades. How might we secure our data so that it survives for generations?

Shining a Light on the Digital Dark Age

MD では何度か取り上げている話題なのだが、僕は考古学者を志望していた経歴もあって、過去の遺産や遺跡の復元や保存というアイデアを尊重している。いやそれどころか、このほど休館(実質は閉館)となった東大阪市立郷土博物館の私設ウェブサイトを自分でつくろうとドメインまで取得しているくらいだ(40年ほど前、東大阪市の東花園に住んでいた僕が小学生から中学生にかけて毎週のように通った博物館であり、職員が使う研究室への出入りを許されていた)。郷土なり地域なり国の文化財を整備し保存するということには、「一定の」という言葉で表せる限度を個人としては超えるような価値を置いていると自負してもいい。

しかし、他方で僕はジャック・デリダや足立巻一という人物たちの著作を通して、アーカイブという発想は根本的に一種の偏執症や強迫観念に近い異常な精神状態の、一見すると学術的・文化的な態度に見える偽装にすぎないとも見做している。足立氏の言い方を借りると「人の業」というわけで、そういう心情は多くの人にあろう。でも、あらゆる文化や言語や遺産や民俗の情報を記録したり、なおまた保存し、継承するなんてことは、原理的にも不可能だし、事実としても経済的・政治的に困難であり、そして思想という観点から言っても「不健全」な発想だと思う。

ウェブ・コンテンツの制作という僕の仕事においても、昔から「URI」というキーワードが使われており、オンラインのコンテンツを永続的に指し示すものとして構想されていたが、こんなものがどれほど論理的・技術的に可能であるとしても、リソースをオンラインにするということ自体が経済的・政治的な制約を免れない以上は、永続性などありえない。ロシアや中国が電話回線網や DNS や IX を遮断すればリソースへの到達は技術的に難しくなるし(衛星に届けばロシア国内から無線でアクセスできるかもしれないが、国に通信を妨害される可能性もあろう)、そもそも到達するべきコンテンツを配置するサーバやネットワークを誰がどういう原資でメンテナンスするというのか。国連のような第二次大戦の戦勝国が作ったインチキ国際機関(いまだにあらゆるドキュメントが日本語版で公表されないのは、何ドルの供託金を国連に出していようと、日本が「敗戦国」だからだ)が仮にアーカイブの組織を立ち上げようと、あるいは Internet Archive のような任意の団体が勝手にあれやこれやのリソースをかき集めていようと、しょせんは政治と経済という二つのリアリティによってどうにでもなってしまうものだ。なぜなら、歴史や記録とはまさに政治と経済の産物だからである。文化あるいは思想や学術として自律した評価をどれほど正確・厳密に下してみても、それらを現実に保存したり復元したり継続して管理できるためには、どう考えても政治的な安定やまともな行政や財務的なサポートが必要である。草の根だの「手弁当」だのという、左翼的なファンタジーなど糞の役にも立たない。現に、そういうことをやっている団体や組織に限って、たいていはイニシアチブをとった金持ちの老人とか学者の属人的な資質や財力によってしか継続していないため、彼らが死んでしまえば終わってしまうことが多い。つまり、始めた人間の自己満足にすぎないわけであって、本当のところ社会的な意義なんてないのだ。僕が公開しようと思っているサイトにしても同じことである。僕が好きで記念として公開するだけのことであって、そのサイトを東大阪市に引き継いでもらいたいとか、どこかの大学の考古学研究室や博物館に委託したいとか、そんなことは考えていない。僕に、もちろん当サイトも含めてサーバ代金を払う余裕があって、サイトを維持する意欲があってこそ、そういうコンテンツはオンラインでアクセスできる。それ以降のことなど、はっきり言って知ったことではないし、そういうコンテンツを利用した各人がその後の自らの生活なり人生において何をするかが重要であろう(そして、本質的に哲学もそういう「効用」が全てだと言いたい。書物を図書館に抱え続けても、それだけで人や人の社会がどうにかなるなんて妄想だろう)。

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