Scribble at 2023-05-14 19:10:44 Last modified: 2023-05-14 22:54:18

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Obfuscation: A User's Guide for Privacy and Protest

Finn Brunton と Helen Nissenbaum が2016年に MIT Press から出した、デジタル・サーヴェイランスに抵抗するための本だ。正直、プライバシーやパーソナル・データの研究は philosophy of information なり倫理学なりとして、いまだに体系的な視点が確立しておらず、要するに教科書のようなものを書くための MECE な論点が整理されていない。そのため、この分野では一定の評価があるソローヴやニッセンバウムといった人々の著作も、はっきり言って論点の建て方や議論の組み立て方が乱雑に思える。そのときどきに大きな話題となっているだけのリスクだとか攻撃ベクトルに依存した議論をしているように見えるのだ。したがって、まだこの分野の著作物は「定番」とか「基本書」と呼べるようなものがないので、色々と眺めていかないと、何か本を何冊か紹介するだけでは一般向けにもまともな解説ができないと思う。国内の通俗物書きどもが、情報の哲学やプライバシーの哲学についてまともな解説を「いっちょかみ」ですら書けないのは、彼らが根本的に哲学者として無能だからでもあるが、関連する著作物を読めてないという情報処理の不足や、情報科学の数学という素養においても大きな欠落があるからだろう。

あとは社会・経済・法律についてイデオロギーや特定の理論から距離をとって考えたり議論するチャンスも少ないし(正直、これらは日本では東大や京大の、たいてい左翼の経済理論家や法律学者がやってると思う。ああ、そういや AV 女優のケツを追いかけてないタイプの社会学者なんてのもいたな)、いやそもそも興味ないんだろうなぁという印象もある。でも、それはそれで分からなくもない。些末な惑星の生物種がどういう社会や歴史を歩んでいようと、「哲学的」な水準での、認識論はともかく存在論にとっては些事でしかないからだ(と思い込んでいるからではないか。少なくとも認知クロージャにコミットしてる立場で言えば、ヒトがやる存在論がヒトの認知能力を超えた議論などできるわけがないと思うのだが)。

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