Scribble at 2022-11-17 09:01:06 Last modified: unmodified

このところ、相当な数のウェブサイトでパフォーマンスが低下しているように感じる。上場企業のコーポレート・サイトであろうと、あるいは個人のブログであろうと、とりわけトップ・ページを表示するのに異様な時間がかかる。ひところは「6秒ルール」などと言われて、ページのレンダリングが完了するまでに6秒以上がかかるとビジターは離脱してしまう可能性が高いと言われて、あの懐かしきヤコブ・ニールセンの著書で広く知られるようになった「ユーザビリティ」なるアイデアを奉じる、いや大多数は単に理屈も是非も知らぬコピペ野郎が「報じる」だけにすぎなかったわけだが(座布団はいらん)、多くの場面でファイル・サイズを減らせだの CDN を使えだのと言われたものであった。

しかし、ページの表示にかかる処理というものをレイテンシと呼ばれる指標で考えると、ウェブサイトの運営者や制作者が何をするかだけで決まるものではない。もちろん、ロシアに攻め込まれてプロバイダやサーバ会社の施設が破壊されると、レイテンシは計測不能になる(サイトへのアクセスが不可能となる)。そこまで極端でなくても、何らかの事情で経路を迂回したり、非効率な経路を使わざるをえない事情が生じると、経路の途中で通過する通信事業者の機器だとか設定だとか滞留によって、レイテンシはサイトの側ではどうしようもない原因でいくらでも変わる。しかし、そうした事情は回線速度や帯域の増強といったトレンドによって改善されてゆくし、改善しない事業者は(後進国の独占企業でもない限りは)市場で負けるのだから、やはりレイテンシは途中の経路だけで語れる話でもない。

しかし、少なくともサイトの運営側としてできることはあり、また明らかにレイテンシを長くしてしまう選択や施策が闇雲に採用されているのも事実だ。その元凶は、もちろん僕が10年以上にわたって非難しているように、

・過剰な JavaScript コードの利用(コーディング)

・効率の悪い CMS(データベース)の利用(ソフトウェア・エンジニアリング)

・安易に巨大な画像を使ったキービジュアル(デザイン)

・ロクに使いもしていないアクセス解析サービスへの通信

・殆ど収益に貢献しない広告表示の通信

となっていて、これに加えて、最近では個人のサイトでも増えてきた、

・実は(無料プランだと)遅い CDN の安易な利用

を指摘できる。オープン・ソースでリリースされている CSS や JavaScript のライブラリなども、最近では CDN サービスの無料プランを利用して配信されているわけだが、当たり前のこととして無料プランにはパフォーマンスの上限があって、過度にアクセスが集中すると処理するセッション数が制限されたり、転送量が制限されたりするため、サイトの運営者が気づかないうちにコードの読み込みが遅くなっている可能性があるのだ。しかし、得てして最近の実制作者というのは新卒やフリーランサーですら豪勢な環境で仕事をしているし、加えてローカルの環境しか知らずに、納品物をリリースするに当たっては CI ツールに出力させたり、ステージング・サーバから公開サーバへ吐き出す処理しかしないことも多い。そして、実はサイトの運営側や制作側にいる人間は、現実に公開しているサイトへ1度もアクセスしなかったりするのである。まして、ウェブ制作プロダクションには「非機能要件」という概念を理解するエンジニアも殆どいないし、テストにすら公的な資格が存在することも知らない人が多いため、クライアントもそういうことにいちいち予算を割いたりせずに、せいぜい公開される前にざっと(ステージングのサーバで!)サイトの主に見栄えを確認するくらいだったりするのだ。

こういう話を、いったい僕は死ぬまで自分のサイトで書き続けることになるのだろうか。僕は、こういう話を20年近くにわたって MarkupDancing で続けてきたのだが、国内外を問わず、ウェブの制作・構築に関わる業界というものは、技術的な見識の欠落した「デザイナーあがり」や「営業あがり」が経営するだけのブルーカラー産業として、従来のデザイン業界やイベント業界や印刷業界や広告業界あるいは芸能界などと同じく、大企業から小銭をせびるチンピラやゴロツキの集団と化してゆくしかないという見込みは動かない。

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