Scribble at 2022-10-04 09:27:13 Last modified: 2022-10-18 13:04:59

日本国内の論説では殆ど名前を見かけたことがないけれど、興味深い研究を長く続けている人物にマイクル・スクリヴァン(Michael Scriven)がいる。もともと数学・論理学あるいは科学哲学に関心があったらしく、アカデミックな経歴を積み上げ始めた頃は因果関係や解明(explication)や心の概念あるいは宇宙論とか帰納推論についての論説も発表しているが、1960年代からゲーム理論や精神分析などの研究テーマが現れて、特に教育学での評価手法にかかわる成果が増えてゆく。僕は彼のキャリアでは最初期の頃に書かれた論説しか知らなかったので、それから教育学へ熱心に関わっていたとは知らなかった。

一口に評価(evaluation)と言っても、まだ「評価論」とか「評価理論」などと言えるような独自のメソッドやアプローチを体系的に立てている分野ではない。もっと広く言えば価値判断全般の議論にもなるため、当たり前のことだが認識論や倫理学にも関わるし、社会科学のあらゆるジャンルとも関わっていよう。なお、日本には評価学会という団体があるけれど、活動内容は価値判断全般の方法論を議論しているというよりも、学会誌や公式サイトの内容を見ている限りでは「政策評価」に集中しているらしい。よって、設立趣意では「公共事業、学校教育、福祉、ODA、ソーシャル・セクター、投資分野」などと応用分野が列挙されているけれど、たとえば僕らのように情報セキュリティの実務家がリスクの評価について何か学ぶことがあるかと言われても難しい。政策評価という偏りが加わるなら、せいぜい「どうして元首相が背後から襲われることを想定しなかったのか」みたいな話にならざるをえない。

なお、僕は要人警護の具体的な内容といった実務(というか、些事)の話は学者が議論するようなことではないと思っているし、政治家とはそういう事情で死ぬことを覚悟してやる仕事だと思う。地方自治体や更に狭い区域の長ですら、多くの利害関係に置かれているものだ。それこそ、ド田舎では町長クラスでも区域内の揉め事に巻き込まれて殴られたり、子供が虐められたりする事例など、昔から幾らでもある。学者の多くはそうした状況について、昨今では「マルチ・ステークホルダ」などと軽口を叩くが、現実の利害関係に置かれて仕事をしているわれわれにとっては、それは「三方良し」だの "win-win" だのという、或る種の bullshit と言ってもいいような御託をお喋りしているだけでは済まされない駆け引きとか牽制の話である。

一例を挙げると、僕ら Chief Privacy Officer(個人情報保護管理者)は、企業の役職としては自社の利益や株主への貢献を目的にしているが、同時に個人情報の当時者である本人の人権を(企業価値を守るためにも)保護しなくてはいけないという、個人情報を収集して利用する側の権益とは別に個人情報を提供する側の権益を守るという役割も担っている。少なくとも、個人情報保護法や JIS Q 15001 は CPO にそういう職責を予定していると見做してよい。よって、収集・管理している個人情報を本人の同意もなく別の目的に「活用」しようなどと営業やマーケティングや経営陣がナウでクリエーティブな糞イノベーションを思いついて喜び始めても、僕ら CPO は彼らの頭を(大阪ではチャンバラトリオのハリセンで)張り倒すような真似をしなくてはならないし、実際に僕は社内でそういうことを何度か実行してきた。ゆえに、人事考課の面談では「馴染みやすい人物像も見せておかないと、人付き合いや会社勤めの経験に乏しい新卒や若手は話を聞いてくれなくなるので注意せよ」と、取締役から注意されることがある。僕が社内で、温和で話の分かる古参社員を演じ続けている理由はそれだけだ。本来なら、人事権さえあれば無能なんてその場で首をへし折ってやるのに。

ていうか、スクリヴァンの話とぜんぜん関係なくなってきたな。

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