Scribble at 2022-09-10 10:27:43 Last modified: 2022-09-13 23:03:43
こういう、日本の出版社(と通俗本の著者)が喜びそうな短絡的な図式を振り回すのは、ベンチャー企業の経営者や VC によくあるインチキ・プレゼンのネタなんだけど、ピーター・ティールも例外に漏れず同じようなことをやっている。"Zero to One" のような〈梯子を登った人からの忠告〉をオラクルさながらに下すような出版物というのは、もちろんあの国では宗教の十八番だ。また、そういう梯子があるのに上ってこないのはどうしてなのかという、お馴染みの(自分の出自や偶然や人間関係を無視した)「自己責任論」も、こうしたリバタリアンどもの得意技とする忍法生存者バイアス(あるいはクリシン、あるいはレトリック、あるいはディベート)の術である。
この動画は2013年の SXSW で行った講演を収録したものなので、もう10年近くも前になるのだが、この時点でピーター・ティールの「経営思想」とやらは賞味期限が切れた感じはあるな。この胡散臭い図式は GAFA なりアメリカの自由主義による勝利者史観ということだけど、それから10年が過ぎて、たとえば今年なんか全く彼が講演したという動画は見かけない。それはそうだろう。彼が威勢よく言ってた「IT による不老不死の達成」なんて夢物語どころか錯覚であることが多くの人たちに理解されつつあるし(彼らの「プロダクト」をよく見よう。実際のところ、この10年の間に GAFA の一社たりとも癌の特効薬どころか絆創膏すら自社開発できていない)、いやそれ以前の「シンギュラリティ」すら出鱈目であり、第何次なのかも知らないが AI への投資を集めるためのペテンだったことが周知となりつつある。Google のレイ・カーツワイルと Theranos のエリザベス・ホームズの違いなんて、捕まったかどうかの差でしかないのだ。そして、いま現在も進行中の集金術で使われるのは、もちろんブロックチェインと量子コンピュータだ。
そして中国やロシアでの動きを見ればお分かりのとおり、しょせん SNS やネットサービスなんて国や軍に設備を確保されたり、配信内容に規制をかけられたら終わりなのである。どれほど技術だけの話として楽観的な世界を語ろうと、それは現実の経済や人々の生活や軍事・外交上の取引や牽制などを無視しては成立も維持もできない。これこそが IT 時代だろうとそうでなかろうと過去から何も変わらぬ事実である。実際、ノージックやロールズの本を読んで誰がアメリカの人種差別や女性差別や移民差別に有効な議論を考え出せただろうか。NHK とバカ官僚が大好きな白熱先生だろうか? それとも、日本では亡くなった女性がパフォーマンスを繰り広げていたように、ギリシア哲学者風の純朴で原理原則に固執する態度を哲学だと錯覚しているような元女優の「有力」哲学教授だろうか。