Scribble at 2022-03-02 09:16:49 Last modified: 2022-03-02 09:18:15
既に書いたとおり、Oxford University Press から出版されている VSI (A Very Short Introductions) シリーズのタイトルは、日本で複数の出版社から翻訳が出ている。OUP が翻訳権を切り売りしていることが確定した時点で、もうどこの出版社から出ているのか、exhaustive なリストを作る些事や徒労にかかわることはやめた。いまのところ、VSI からの翻訳は表紙に装丁の一部として表記されているし、Amazon などでのリード文にも表記されている場合がある。それに、VSI からの翻訳だというだけで一定の価値があるというわけでもないから、別に本を選択する指標として参考にできるわけでもない。
さて、本書は VSI からの翻訳書としては恐らく最も高額になっていて、或る意味では挑戦的な価格設定と言える。昨今の(そして20年ほど前から全く平均的なリテラシーが向上してもいない)IT なり情報理論についての、多くの人々のコンプレックスに訴えて、この程度の価格でも売れると見込んでいるのだろうか。そもそもフロリディの著作は昔からあまり話題になっていないのを見ても、こうした著作は中途半端な気がする。僕らのようなネット・ベンチャーで離散数学から暗号論まで実務でかかわっている人間の多くは、この手の(金にもならない)話は敬して遠ざける傾向があるし、ただの数学コンプレックスで手軽にナウい科学や数学の話をしたがっている人々にしても、こんなものを1冊だけ読んだくらいでシャノンの論文が理解できるようになるわけでもない。結局、いまのところフロリディの著作は通俗的なステージでも落としどころがない。しかも、(科学)哲学のプロパーからも大して評価を受けていないのだから、なおさらだ。実際、ブール代数や Google やシリコンの話をして、哲学の何がクリアになったり解決するというのか。実は彼ら情報の哲学を唱道する人々には、いまのところナウい話題にかかわっているという事実を超えた、〈哲学としての〉何の実績もないのである。
ちなみに「挑戦的な価格設定」と書いたが、勁草書房の判断に強い異論はない。なぜなら、原書では back cover の表記だと $11.95 であり(よくアメリカでは本が自由な価格で販売されていると言われているが、実際にはそうでもない。たいていのオンライン書店を見れば、定価販売されていることがわかる)、アメリカでも手ごろな通俗本とまでは言えなくなってきているからだ。この価格設定にアメリカでも違和感がないとすれば、それはあなたがフロリディと同じく Google の高給取りだからかもしれない。