Scribble at 2021-11-27 13:48:18 Last modified: 2021-11-27 16:13:13

たまにぼんやりと思うのだけれど、人が生活するのに、そんなにオンライン・サービスって使ってるんだろうか。みなさん、買い物へ行くのにスーパーのチラシが掲載されているサイトを見てから行くだろうか。たいてい、何曜日、あるいは五十日にはどこのスーパーが鮮魚類を安く売ってるとか、覚えてるだろう。いちいち初めてスーパーへ行くかのような検索とか調査とか、そんなもんしないだろう。あるいは、清涼飲料水や炭酸飲料を買いに行こうとして、そもそも自宅の周囲にコンビニエンス・ストアやスーパーなど、それらの飲み物を買える店舗がどれほどあって、それぞれの売値はいくらなのか、調べてから家を出るだろうか。たいてい、いちばん近いコンビニエンス・ストアへ自然と足を向けるのではないだろうか。

このところ、調べるにも買い物するにも、コロナ禍だのなんのと言ってはオンライン・サービスを使うのが生活スタイルの一部として自然ないし当然であるかのような錯覚が蔓延しているように思うのだけれど、果たしてオンライン・サービスやネット・サービスって、それほど僕らの生活にとって重要なものだろうかという気がする。たいていの生活においては、ネットなんて関係ないだろうという気がする。

もちろん、スーパーへ行って買い物をしたら、カードでポイントを貯めるときに、スーパーはインターネット回線なり、ポイント管理のサービスへ API 接続したりと、何らかの通信サービスは利用しているだろう。また、商品在庫の管理だとか、ロジスティクスにおいても、インターネット通信を利用した大規模なネットワーク・サービスが活用されていることくらい、先進国の社会人として常識というものであろう。そういう点で、オンライン・サービスやネット・サービスがインフラの一部として普及していることに疑問の余地はないが、僕ら自身の生活として自覚している限り、それほどオンライン・サービスなんて視野の中に入っていないと思うし、それでいったい何がいけないのかという気がする。

オンライン・サービスありきの人生なんて、おかしいだろう。人として、生物として。僕は、周回遅れのラッダイト運動やハイデガーおたくが嬉々として展開するセンチメンタルな議論に見られるような、つまらない思想家プレイをするつもりはない。技術批判だとか文明批判だとか、そんな大風呂敷の話は、ひとまずどうでもよい。オンライン・サービスを展開する企業の部長として、市場や消費者についての重大な錯覚や思い込みや誤解が深刻なほど蔓延しているように感じるから、このように冷水をぶちまけるようなことを敢えて書いているにすぎない。最後の最後、人はネットワーク通信なんてなくても生きていけるし、現実にいま現在の生活ですら、たいていネットワーク通信サービスなんて関係ないのだ。

したがって、多くの人々がネットワーク「通信」をユーザとして活用したがってるなんてペルソナを設定して商品開発や市場予測をするのは重大な錯誤だし、たいていの人が「インターネットで」何かをしたいと思ってるなんてことは思い込みもいいところだ。Instagram で大勢のフォロワーを欲しがる「弁当おばさん」の類は、別にインターネットとかオンライン・サービスなんてどうでもいいのだ。要は、有名になって、多くの人たちから称賛されたり、何らかの生きている意味があると認めてもらえたら、別にネットワーク通信なんかなくてもいいのである。取材を受けて雑誌に取り上げてもらい、反響の手紙や電話をもらうのが嬉しいといった動機と大して変わりはないところで、毎日弁当の写真をアップロードしているのだ。また、Facebook で営業活動するような個人事業主や中小零細企業にしても、別に Facebook がないならないで他のことをするだろうし、インターネット通信があってオンライン・サービスがあるなら、それを利用しない手はないと思っているにすぎない。有能な事業者や起業家なんて、16世紀でも21世紀でも考えることの本質的な着眼点は同じであり、ネット・サービスのような道具は、そういう思考において本質ではない。

すると、ここから当然のように結論として出てくる話だと思うが、ネットありきの事業とか、ウェブありきのビジネスしか考えていないマーケティングのセンスや素養では、およそ幅広い顧客のニーズを正確に理解したり予想したり分析することはできないということだ。ウェブバカには、ウェブしか見ていないバカしか相手にできないという致命的な欠陥がある。「ウェブで」何かがしたいという動機のない事業者やユーザに、「ウェブで」しか成立しないサービスを提案しても、彼らの動機づけを狭い範囲に押し込めるだけで、それはただのミスマッチというものだ。それゆえ、ウェブ・サービスの事業者だろうと一般的で伝統的に通用してきたマーケティングの知識が欠かせず、「ウェブ・マーケティング」などと称する、Google Analytics の操作方法を論じる浅薄なノウハウていどで有効なサービス開発やサービス設計はできない。さらに広いチャンスなり方法なりモデルの中に、自分たちのサービスを位置づけるような見取り図をもつことが大切だ。

僕が、数学とか一般的なビジネスの知識をネット企業の人々にも求めているのは、それが理由だ。これは、客の方が頭がいいとかものを知っているという問題ではなく、事業展開の視野として狭いほうが広い方を導くことなどできないという単純な話をしているにすぎない。

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