Scribble at 2021-08-29 14:06:20 Last modified: 2021-08-29 18:49:45

基礎や原則が大切だという話は、これまで大半の人が学校で何度も教師から聞かされてきた経験をもっている筈である。しかし世の中には、どうもそういう手堅い(そして、それしかありえない)着実な段階を経て技工や仕事や学術あるいは趣味から芸術までの様々な営みについて、それらの基礎や原則を習得することなしに、習得する訓練とか勉強という段階を一足飛びに越えて、巨大な成果を上げて宇宙の平和を守ったりアイドル歌手と結婚するといった〈成功〉を遂げるショートカットがあるという妄想がはびこっているらしい。生まれながらにして何故か周りの女性を魅了する風貌や所作の主人公が登場する漫画だとか、子供の頃は周囲からバカにされていたアインシュタインを主人公にした評伝だとか、あるいは数々の「転生モノ」とか「リセット系」と呼ばれる子供向けのアニメや小説など、基礎や基本の習得を度外視したり、「強くてニューゲーム」のチートで歴史に名を残すような結果を残すというファンタジーに、いまでも多くの人々が魅了されているようだ。

もちろん、殆どのヒトにそんなことはできない。どれほど巨額の財産を手にしたり一国の大統領となっても、数十年後には死亡して焼却されるか腐って微生物に分解される。実在としての宇宙の本質が何であれ、しょせん主観としてのわれわれは、恐らくその真偽や意味を知ることなく先に消失して言葉や概念として表現すること自体に何の意味もなくなり、〈状態〉や〈状況〉と表現することにすら意味がなくなる無へと〈***〉(このプロセスや終局の状態は、たぶん第一人称的には概念や言葉として無効だろう)。いずれにせよ、巨大であろうとなかろうと業績を残す人々がやっていることは常に共通している。しばしば、「天才は多様だが凡庸は画一的だ」と言われるが、いま論じている脈絡に限って言えば、僕はそうは思わない。仮に「天才」を結果論として何らかの巨大な業績を上げる人々のことだとすれば、天才は常に一つの共通点をもつが、凡人にはヒトであるという以外の共通点は殆どないと思う(もちろん、天才がもつ共通点〈を満たさない〉という共通点があるのは自明だと思うが、それはまったくトリヴィアルで語る値打ちがなかろう)。

天才が無から有を生み出すような超人や神でない理由は、考えてもみれば簡単な話だが、明白な一点にある。そろばんの扱い方を教えられていない者が「そろばんの天才」になれるわけがないからだ。その人物がいかに多くの数を瞬時に演算できたり、大きな桁の数を瞬時に演算できても、その人は「暗算の天才」ではあるかもしれないが、そろばんを全く扱えないなら「そろばんの天才」ではありえない。つまり、新しく巨大な業績を上げるには、基礎や原則というところ〈から〉出発するしかないのである。それらを習得して正確に理解しているからこそ限界や欠点がわかり、それを克服しようとして試行錯誤するのだ。もちろん、その基礎や原則を正確かつ迅速に習得する才能そのものが〈天才的〉という人物が多いのは確かで、小学校へ入るまでに大学レベルの数学を理解している子供や5歳でラテン語とギリシア語の古典を読めるようになる子供など、昔からいくらでも「神童」はいた。しかし、そういう人々の大半が、従来の学術や文化やスポーツを根底からひっくり返すような業績を、実は出していない。われわれは業績を上げた人々の評伝やウィキペディアのエントリーばかり読んでいて、典型的な後知恵バイアスや生存バイアスに陥りがちだが、実際には記録に名を残す人々の多くが「神童」であるのは、まさに記録に名を残せたからにすぎないのであって、多くの「神童」は何の業績も遺していない。

これは、もっと簡単に想像して理解できる話に置き換えるなら、東京大学の卒業生が日本に累積で30万人もいるという事実を指摘するだけで足りるだろう(もちろん東大生の大半が「神童」などではなく、英語を読み書きできるアドバンテージがあるだけの凡庸な帰国子女や、受験テクニックの小手先小僧どもなのは知ってる)。日本で、何の尺度でかは知らんが「頂点」に位置するとされる大学の卒業生が、これまでに累積で30万人もいて、どうしてこの国はエロアニメと芸者とアダルト・ビデオしか世界に誇れない風俗国家になってしまったのか。東京大学とは、しょせんその多くが国家官僚としてノーパンしゃぶしゃぶに通うしか能がないクズを排出する教育機関なのか。もちろん、これは「釣り」だ。実際は、そうではあるまい・・・と、わずかに期待したいところだがね。

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