Scribble at 2021-08-17 11:26:26 Last modified: 2021-08-19 12:57:03

MarkupDancing では何度かご紹介しているところではあるが、このところクズみたいな本ばかり読まされたおかげでビジネス書を読み進めてゆく気分が減退していた。そこで、残念ながら日本人の書いた馬鹿げた経営書を読むのは暫くやめることとし、気分を改めて『熱狂する社員』を読み始めている。やはり実地での調査(それが最善の実証や論拠になるという保証はないが)や論考を重ねてきた学術研究者の書く文章は、全てというわけではないが、堅実で論拠がクリアだし、それに多くの人には意外かもしれないが、読みやすい。

これは、何も僕が大学院を出ていて学術的な文章に慣れているからというだけではなく、〈正確かつ厳密に物事を理解したり考えようとする人〉であれば、誰でもそう思う筈なのだ。よく、優れた学術研究書や論文を文面すら一瞥もしないで、「あーだめだめだめ」などとアレルギーや思い込みで拒否する人がいる。しかし、そういう態度は、それらの文章の方が〈わかりやすく書いていないという、至上の価値である通俗化を満たしていない何らかの罪を犯している〉と勝手に処断しているに等しい。しかし、およそ凡人や大衆には、知識や学術に対してそんな判断を下す権限や資格などあるはずがないのだ。ここでも僕は一貫して権威主義のスタンスを維持しているが、そういう理由だけでなく、実際によく書かれた文書というものは、ビジネス書だろうと物理学の論文だろうと、それどころか今日の夕方に『LIFE』へ行って買ってくる品物のリストや、社内で申請する稟議書の類であろうと、読みやすいものなのである。翻って再び逆に言えば、たとえ帰宅する家族に書き残した短いメモであろうと、不適切な書き方をしていれば、相手を困惑させたり不愉快な思いにさせたり意図を測りかねる思いにさせるのである。

本書は「熱狂する社員」というタイトルのせいで、あたかもカルト的な盲信(馬鹿げた民間診療にすがって死んだ Apple の元イカサマ経営者に対する信仰のようなもの)を促したり誘導する、胡散臭い組織論かマネジメントの本であるかのように誤解される恐れがあって、やや気の毒だ。僕も書店でタイトルだけを見たときは、そう思った。滅私奉公、自己責任、徹夜自慢、経営者の崇拝、ものづくり精神といった、会社員が陥るありとあらゆる錯覚を引き起こすように社員を誘導するには、どういうイカサマやトリックが有効なのか・・・もちろん、本書は光通信やアマゾンの人事部御用達といった内容ではない。実際には全くの逆であり、人事系の著書としては非常に珍しく、雇用や給与を保証することにもウェイトを置いて議論している。もちろん、雇用や給与を或る程度の範囲で従業員に保障することなど、企業の管理職という僕の立場で考えても当たり前のことだ。

日本でしばしば採用されている組織体制や人事制度には、海外の経営学者や、大企業の経営者が論じている理屈やスローガンを曲解したり都合よく解釈して、非常に杜撰で馬鹿げた登用や人事や組織づくりをやっている企業がある。たとえば、「フラット経営」などというフレーズだけを取り込んで、昇進とか職位という考えを軽視したり取り払ってしまう会社がある。そのついでに昇給もなくなるわけだが、フラットに上司や経営陣と話ができる〈よい会社〉であれば、人は仕事をしてくれると思いこんでいる経営者がいるのだ。そんなわけはあるまい。昇進も昇給もない会社で働くなら、最低でも数年で家が買えたり、数年で退職した後は残りの人生を遊んで暮らせるくらいのギャラをもらってしかるべきだ(どんな大企業であろうと終身雇用を保証することはできない)。実際、ウォール街で働く人々の一部は、そういう待遇で働いているのだから、不可能な話ではない。不可能なのは、会社の財務状況と、社員に口走っていることに矛盾をなくす事の方ではないのか。

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