Scribble at 2020-12-02 09:37:24 Last modified: 2020-12-07 15:07:42

科学哲学というのは科学を上から見て論じるのだろうと勝手に思い込んでいたが、科学と科学哲学は対等な立場で対話するのだと松王さんはいう。しかも、科学哲学の主要な論点と学説の系譜をこれだけ見通しよく示してくれた上で、対話をしましょうと手を差し伸べてこられたら、科学は科学哲学との対話に喜んで応じるしかないではないか。それによってお互いに得られる気付きは豊かであるはずだ。

科学と科学哲学はいかに協働できるのか──近刊『科学哲学からのメッセージ』(松王政浩 著)序文公開

こういう放言をわざわざ公の著作物に関して出版社が紹介するという意図が分からないんだよね。(ちなみに、上記の引用は松王さんの文章ではない。)

アメリカにもイギリスにも、《この手の人たち》はたくさんいるわけだけど、結局はそういう人たちがたくさんいたからといって、別に科研費の審査で日本物理学会に邪魔をされるわけでもなく、逆に日本科学哲学界が特定の物理実験を非難するわけでもないし、結局は酒席かマスコミのどちらかという、学術的にはどうでもいいどちらかのステージで話題にされてるだけなんだよね。《哲学なしの科学》というコンセプトが論理的に可能だと思うなら、それをやって実績を上げるのが学術研究者の本義だし使命だし矜持だし責任というものであって、何の世界レベルの業績も上げられない人間が《理工系で教えてます》ていどのクソ現場主義で他の学問の要不要を論じるなど、はっきり言わせてもらえば不愉快というだけであり、学術研究者として取り合うつもりはないな。(だから、当サイトでは「理系・文系」というナンセンスな話題を取り上げないのである。こういう自意識にしがみついているのは、世の東西や古今を問わず無能だけだ。)

そういうわけで、当サイトの About で書いている「ストリート・ファイト」と松王さんが控えめに書いていることとは、主旨としてはほぼ同じだろうと思っている(趣旨は違うのかもしれないが)。

では、俗に「世界レベルの業績」を上げながら哲学嫌いを標榜していたとされるファインマンのような俗物なら哲学に何かを言う権利があるのかと言えば、それも結局は《哲学なし》だという証明ができない限りは、なんらかの哲学的な成果という肩に乗って威勢のいいことを言っていただけということになる。その程度のプロパガンダをやる科学者など、ナチスにも日本にも、そして原爆を落としたどこかの国にもたくさんいたというのが、歴史の教える事実だ。もちろん専門での業績には敬意を表すべき人物だが、こういう人物の通俗本を、こともあろうに岩波書店のような出版社が翻訳し、彼の学術的な業績とは無関係に嬉々として読んでいる人々が東アジアの辺境地帯にたくさんいるという、思想的な錯乱状態が何十年も続いているという事実にも、皮肉な意味で或る種の畏敬の念を抱きたくなる。

とにもかくにも、世の東西や古今を問わず科学者(という自意識をもつ人。本当に《科学》者なのかどうかは疑わしい、足し算や些末な観察が好きというだけの人材も多い)の中には、科学者あるいは科学者の集団について、「知的情熱」とか「飽くなき探求心」といった高潔で崇高で純粋な意志というものを少しでも過小評価したり、あるいは科学者がそもそも知識欲以外の理由で生きる人であるとか、政治的な駆け引きや経済活動をしているかのようなことを臭わせる文章は科学の権威に対する挑戦だと見做す人々がいるらしい。まるで500年前の異端審問官のような連中であり、こういう連中の取り巻きが「文系が戦争を起こし、愚かな戦略を立てて、敗戦後も出鱈目な政策を次々と推し進めてこの国を破壊した」といった文章を、それこそ現代でもばらまいている。戯画化して言えば、『トヨタ日曜ドキュメンタリー 知られざる世界』のテーマソングが頭の中で鳴り響いているかのような人々が少なからず現代にもいて、その大半はわれわれ科学哲学の研究者が学部時代に叩き込まれる(であろう)初等的な数理論理学や線形代数学や解析学の勉強すらしていないくせに、与太レベルの工学や小手先技術を習得したくらいで自分たちは科学の側に立っていると思い込む。まったく、当サイトでは特に指摘もせずにずっと無視してきたが、アメリカだろうとフランスだろうと、この手の馬鹿が自然科学者や「自称理系」には山ほどいることが Twitter などによって明白な事実となり、正直なところ当サイトでいちいち言及するのもバカバカしい限りだ。

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