Scribble at 2020-10-12 09:55:24 Last modified: 2020-10-12 20:23:48

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黒木さんにしろ鴨さんにしろ、プロパーの方々がこうやってモグラ叩きを続けていることには、もちろん僕は総論としては良くないと思っているのだが、各論としては敬服に値する活動だと思う。

僕がそれらの活動を総論として「良くない」と思っている理由は、学術研究者には人類の知識を1歩でも前進させる義務があり、それぞれの社会はそのために学術研究活動へ大きな助成金や補助を投じてコミットしているからだ。ゆえに (1) 学者が公に研究成果を出したり、(2) 次世代の研究者を育成したり、あるいは (3) 研究分野の実績を普及させることは、それぞれ学術研究者の責務として数え上げていいわけだが、それらの中には列挙した順番での優先順位というものがあろう。逆に、この順序でプライベートな活動からパブリックな活動への波及効果はあるため、(3) のような活動自体は否定しない。ただ、(3) のような活動が学者の本分ではないということを忘れて通俗書の執筆やワイドショーのコメンテーターやら政府の何とか委員や学内政治に専心したり、もちろん Twitter で素人やバカのツイートを取り上げて訂正して回るなどというのは、学者としては個人としての時間の浪費であることは言うまでもないだろうが、それだけではなく間接的な社会からのサポート(科研費や企業の助成金がなくても、特筆するべき国際的な業績があるわけでもない学者が大量に活動できていること自体、その国が安全で豊かな状況である証拠だ)に反すると言っていい。要するに、反射的な知覚や本能的な探索行動を除いて、何かを《知ろうとすること》それ自体も生得的とは言えない可能性はあるが、少なくとも制度化された学術研究というものはヒトどころか文明化された共同体の住人である社会人にとって、生得的な生業でもなければ自然権でもなんでもないのであるから、それに見合う活動を蓄積しない限り社会から断罪されたり非難されても当然ということだ。(それゆえ哲学が常に冷笑されたり非難されながらも存続してきたという歴史は、或る意味では人類が豊かな社会を維持してきたという事実を皮肉にも証明している。)もちろん、黒木さんも鴨さんも、アメリカの一部の哲学教員みたいに Twitter にへばりついてるとは思えないので、非難するほどのことではないだろう。

なんにせよ、総論としては彼らのような人材が素人やアマチュアの馬鹿げた発言を正して回るというのは、人類全体という大袈裟なスケールで同じようなことをしている人々が如何ほどになるかを想像すると、巨大な徒労だと言わざるをえない。本来、そういうことは最低でも博士号を持っているアマチュアやメディアの人間がやる方が望ましいし、日本のようにメディアでものを書いている大多数の人間が学位を持っていないという恥ずべき状況を底上げする圧力にもなる。また、冒頭に書いたように、彼らの或る意味では尊敬に値する行動も、結局は「モグラ叩き」でしかないのである。これも啓蒙の歴史が教えることだと思うのだが、間違った意見や事柄を正しいか事実であるかのごとく気軽に公に発する人物に限って、正規の勉強はしていないし、したがらないものだからだ。素人やアマチュアにとって、厳しい修練や勉強を遂げることなしに、学者と同じように公へものを言えることほど愉快なことはないからだ。凡人や馬鹿にとって、このように強力なインセンティブがある以上、それを実現できる SNS なりウェブ・コンテンツという場で、彼らのインセンティブ設定が間違った理解に基づくていると説得することは非常に困難である。

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