Scribble at 2019-06-28 21:35:16 Last modified: 2019-07-09 09:18:54
岩波書店から、「現代哲学のキーコンセプト」というシリーズが出ている。続刊に『因果性』というタイトルもあって、さすがは編集責任が一ノ瀬さんだけある。もちろん、当サイトでも書いているように、「現代哲学」という言葉には哲学的に言って何の妥当な意味も無い。ただのマーケティング言葉だ。
内容はひとまず確率の哲学の概論としてはオーソドックスな内容で不足はない。というか、傾向性説や物理的特性説が出てから事実上の停滞が続いていて、はっきり言わせてもらえば確率の解釈について従来の学説を書き並べる概説やアンソロジーしか本が出ていないとすら言えるので、気の毒だがこの程度なら修士の学生でも書けるとすら言っていいだろう。
もちろん、だからだめだというわけではない。とりわけ、確率については統計学を使ったクリシンやビッグデータ解析がブームとなっているため俗書は山のようにあるし、実は確率の哲学の本もハッキングやギリースの翻訳が既にあるわけだが、版を重ねるほど売れないせいですぐに書店からなくなってしまうため、趣向を凝らして新しい本を出し続けていないと根本的な論点についての啓発が続かないという実情がある。それゆえ、僕はそういう実情が「由々しきこと」だとぜんぜん考えてはいないのだが(関心があれば自分で参考になる本くらい誰でも探すものだからだ)、とりあえず人目につく方がいいような気はするし、馬鹿げた通俗書が続々と出るよりもマシではあろう。