Scribble at 2026-05-14 14:16:39 Last modified: 2026-05-14 14:24:02
本書は2021年に出版されたので、生成 AI ブームよりも前の時点での技術や理論が解説されている。それでも、既に TensorFlow などのサービスが普及していたわけで、機械学習やディープ・ラーニングを学ぶには十分な知見や実装の蓄積がある段階(GAN も取り上げられている)で書かれている。なんと言っても著者は Keras の開発者であるフランソワ・ショレットだ。基礎的な素養を身に着けるのであれば、この時点で出版されている本であろうと十分だ。しかし、そういう見通しをもっておらずに手軽なノウハウ本を探すだけだと、数か月でゴミになるような本を延々と読み続ける羽目になる。これも "short-term pain, long-term gain" の一例と言うべきだろうか。これ、適切な日本語の言い回しがなんだろうかと考えるのだけど、「短気は損気」じゃあ、ちょっと違うような気がする。「急がば回れ」の方が近いのか。ただ、大半の人々という凡人は長期的な観点での効用なんて求めていないわけで、その場のハックとか workaround だけを求めるものなのだから、こう指摘したからといって凡人が考えを改めるわけはないのだ。
いずれにしても、やる気がある方は本書をお勧めする。なんと言っても、そういう事情で買う人が減っているからか、古本で1,000円もせずに新品同様の本が手に入った。そして、中身は Python を使った、いまどきは日本語でも似たような構成がある解説書なのだが、その密度と理論的な正確さなどは、やはり大部の本を丁寧に書いて読むことが当たり前となっている海外の著作物に特有の利点であろう。何かと言えば薄くて安い本ばかりを求めるのが日本の読者だが、薄い本だからといってものごとを的確に要約して書いてある保証なんてないし、僕が哲学だけではなく数学や物理学や分子生物学や社会学など色々な分野の教科書や解説書を読んできた経験から言えば、日本の教科書はただ単に薄いだけであり、ものごとを正確に概説したりまとめている事例なんて殆どない。そもそも、ものを書く訓練をまともに積んでいない自然系の学者や編集者が海外の専門的な訓練を積んでいる出版社の人々と同じレベルで教科書を編纂できるはずがないのだ。それは、岩波書店や共立出版といった有名出版社であろうと言える。東大や京大の教授連中とつるんているだけで、自分たちが何か特別な編集能力を身に着けたかのような錯覚に陥っているだけだ。僕に言わせれば、日本の学術図書で教科書を編集している人間と、十分な分量の書籍を出版するための投資としてコーポレート・ファイナンスを担う財務担当者は、Oxford University Press や Random House にでも行って10年ほど修行してこいと言いたくらいである。