Scribble at 2026-07-21 12:40:41 Last modified: unmodified
ここ最近の生成 AI 産業とかビジネスについての見通しという議論に見られるのは、いわゆる中国企業が続々とリリースしているオープン・ウェイトへの脅威論と、それによって「生成 AI バブルの崩壊」が起きるという話である。
たとえば、"American AI is locked down and proprietary. It's losing." というブログ記事で展開されている議論が典型であるように、OpenAI や Anthropic や Google や Amazon による生成 AI のクラウド・サービスは、API を差し替えれば他のモデルへ簡単に乗り換え可能であり、技術的なロック・インは弱いと言える。このような状況で、どんどん性能が近づいている中国のオープン・ウェイトに ChatGPT や Claude や Gemini からの乗り換えが起きればアメリカ企業のバブルは崩壊する。そもそも、アメリカそのものがグラフィック・カードの輸出規制を行っているから、中国ではカードを大規模に使うクラウド・サービスを展開できない。だが、その代わりに中国では国が後押しして Qwen や DeepSeek や GLM や Hunyuan などのオープン・ウェイトを積極的にリリースしており、これらは個人ユースを含めてどこでも自由に実装して利用でき、利用そのものにも許可や強いライセンスがない。そのため、特に画像生成 AI などではテキスト・エンコーダというコンポーネントで Qwen がデファクト・スタンダードになりつつあるほどだ。このように、中国のオープン・ウェイトが普及するようになれば、アメリカのクローズドなサービスは負けて、莫大な投資の損失に至って市場が崩壊するかもしれない。
これに対して、上で紹介しているブログ記事では、中国のオープン・ウェイトによる無料なモデルの普及には過大評価があると指摘する。実際、いまやオープン・ウェイトはスマートフォンにすら実装して動かせるほど、ファイル・サイズも小さくなって、要求スペックもさほど高くない。それでも、ネット・ベンチャーである当社の従業員を見ていても(弊社の従業員は、ネット・ベンチャーとしては困ったことに IT リテラシーが低い方かもしれないのだが)、自分のローカル・マシンに生成 AI の稼働システム、llama どころか LM Studio すらインストールしている人は非常に少ない。それに、インストールできたとしても、何か事業や目的に沿って生成 AI を適切・正確に利用するための configuration だとか system prompt だとか、あるいは入力するプロンプトそのものの仕様について理解している人は更に少ない。そして、ビジネスに利用できるだけの高性能なオープン・ウェイトを動かすには、やはり学生向けのノート・パソコンていどのスペックでは不十分であり、社内に専用のサーバを立てるのであれ、あるいは自宅に専用のパソコンを買うのであれ、それなりの予算や投資は必要だ。ましてや自社専用のエージェントをクラウドに構築するなら、その運用コストは ChatGPT や Claude の API コストと大して変わらないかもしれない。また更に、生成 AI の利用にはモデルに最適化された運用システムも必要であり、Claude Code のような開発専用のプラットフォームを自力で開発するような企業は少ないし、できたとしても相当な予算が必要になる。トークンの量を基準にした効率を比較しても、アメリカ企業の提供する有料モデルの方が効率は高いという報告もたくさんある。つまるところ、オープン・ウェイトが無料であるというだけでは、生成 AI をビジネスへ役立てるための大きなコストを無視したり除外できるわけではないのである。
これらの議論をまとめると、オープン・ウェイトという無料で手に入るモデルがたくさんリリースされているからといって、産業規模での単純な評価や比較はできないだろう。だが、技術的な進展もあって、生成 AI の開発や導入や運用に関わるあらゆるコストが下がってくるのは確実だろうし、性能の差がなくなるのも時間の問題だろうと思う。画像を生成しているユーザとして考えてみても、既に3年前の SDXL から先月にリリースされた Krea 2 までのあいだに色々なモデルがリリースされてきたわけだが、いまだに SDXL で生成する画像で十分に(印刷というよりもウェブのコンテンツとして、だが)商業レベルのイラストや写真の画像を作り出したり編集できる。いわゆるアニメ塗りと呼ばれるシンプルな描写のイラストについて言うなら、もう既に SDXL + LoRA のようなアーキテクチャで十分な品質のイラストが作れるのだ。