Scribble at 2026-06-25 08:50:31 Last modified: 2026-06-25 10:35:08
これまで何度か書いてきたように、生成 AI のレスポンスの品質は、実感として向上している場合もあるが、品質として停滞しているか、逆に低下しているように見える場合もある。明らかに向上しているのは、分かりやすいからか画像の編集に関する機能だが、品質が停滞している(少なくとも殆ど改善しているように思われない)事例としては、NotebookLM の音声概要などは、男女の会話で自分の発言に自分で応じるというバグがぜんぜん治っていないし、日本語の単語の発音も全く改善されていない。
そして、多くの開発系ブログで報告されているように(ちなみに日本人の開発者のブログは無視しているので分からないが、note や Qiita や Zenn などに掲載されている生成 AI 以下と言ってもいいゴミに、そういう参考になる記事はあるまい。高校生や専門学校の諸君には英語で検索することを勧める)、AI スロップによるウェブ・コンテンツなりデータの生成と追加は、色々なプロジェクトで懸案となっている。もちろん理由は、生成 AI が大量かつ短時間に作り出すコードやコンテンツの品質が十分な信用に値しないにも関わらず、それらを検証する人の数や生産性は上がったりしないので、人が生み出すデータと合わせた数の総量を検証したり処理するためのコストが桁違いに増えているからだ。しかも、オンラインで投稿されたりリポジトリへ追加される PR (pull request)は、表面的にはヒトが手動でやっているのと生成 AI なりエージェントが API 経由でやっているのとで区別がつかないため、これらを簡単に見分けることはできない。いや、見分ける生成 AI があるとしても、そんなものをいちいち導入して動かすコストが無駄であろう。
という脈絡があって、上の記事を読むと、OpenClaw リポジトリでは、AI コーディング・エージェントの普及により PR 数が爆発的に増加し、質の低い PR が大量に押し寄せた。その結果、マージ率が 48% → 9.3% に急落している。つまり、大半のプル・リクエストはゴミであるというわけだ。そこで、ブログ記事の筆者である Greptile はこの現象を分析し、今後の OSS プロジェクトに対する貢献の仕方の未来像を示している。
PR スパイクと質の低下を見ると、2023年末には週 2 件の PR だったのが、2024年2月には週3,400件に急増している。だが、マージ率は 48 % から 9.3 % に低下しており、AI が生成した低品質の PR が大量発生しているという。で、もちろんそれを実行しているのは contribuers である人間であり、或るユーザは1日で106ものプル・リクエストを送ってきたという。これは、筆者によれば「スパム」と言ってよく、解決策としてブロック・リストやユーザの信用スコアを導入する必要があるという。実際、Ghostty の作者 Mitchell Hashimoto が導入した Vouch というツールによって、信用できる人だけが PR を送れる仕組みが実用化されていて、OSS にも sender reputation system を普及させる必要があろうという話である。
また、オープン・ソースの文化における生成 AI の影響として、プロジェクトへの貢献者が増えても思考の多様性が失われているという。それは、AI エージェントが同じような提案を生成するため、個々のユーザから独立に殆ど同じ内容のプル・リクエストが大量に発生しているという。こうなると、リーナスが言った「十分な数の目があればバグは簡単に見つかる (Given enough eyeballs, all bugs are shallow)」という格言が揺らいでしまう(ちなみに、"shallow" を「浅い」としか丸暗記してない人は「バグは浅い」などと馬鹿げた日本語を平然と書くものであり、そういう人の翻訳は信用しないほうがいい)。すると、多様性の源泉であるはずの OSS による協働作業が AI によって価値を失い成果が簡単に収束してしまうようになる。しかし実際には、コミットに値する修正とか追加の提案というものは、検証する側に高度な思考を要求するようなものであり、このような状況はタイピングより思考が重要であるという現代のソフトウェア・エンジニアリングの潮流を裏付ける。
もちろん、同じコーディングでもウェブ・ページの HTML コーディングなどは、JavaScript や CSS を迂闊に操作しない限りは生成 AI で処理して構わないと思う。もともと、こんなものは機械がやるべき作業だからだ。ウェブ・コンテンツの要は UX/UI 設計とユーザビリティであって(アクセシビリティは、本来は要どころか必要条件であろうが)、ビジュアル・デザインすら重要性はそれらの次である。人がやるべきことは、もともとはそこまでであって、そこまでの設計なりデザインが十分に行われたら、その後はあらかじめ定義されているセマンティクスとシンタクスに準拠して自動処理で HTML や CSS のコードを吐き出せばよいのだ。そんなことに人手をかけるのは無意味である。もちろん、コードの生成にあたって必要なルールは人が決めるべきことだが、残念ながら日本に限らず「コーダ」と呼ばれる職種の人々は、20年かかってもセマンティクスとシンタクスを理解し設計し考案する基本的なロジックや離散数学すら勉強していないという、テキスト・エディタのオペレータばかりである。それでは君たち、生成 AI に秒で凌駕されるのは当たり前なのだよ。