Scribble at 2026-06-07 07:48:32 Last modified: 2026-06-07 07:48:56
たまに英語圏では映画のタイトルなどをヒントにした論文の題名だとかスローガンが使われていて、ウィットというか茶目っ気のようなものを感じる。でも、内容はそれなりに深刻だ。なぜなら、「リモートワークは孤独を増やし、特に一人暮らしの人のメンタルヘルスを悪化させている。2011年から2019年、そして2022年から2024年という二つの期間どうしの比較では、メンタルが悪化したケースの約 1/3 がリモートワークの環境にあったという関連性で説明できるとしている。そして、これが困るのは、リモート・ワークでの作業が効率的で快適でもある僕らにとっても逆風になることだ。こういう結果を振り回して、旧世代の人間というのはすぐに "Return to Office" を叫ぶからである。人のぬくもりとか、面と向かい合うことの大切さとかさ(もちろん、それは条件によっては否定しない)。とにかく昭和臭っせぇし体育会の汗の臭いが21世紀のビジネスの現場に漂ってくる。ただ、確かにリモート・ワークでの働き方に何か工夫や配慮が必要なのは確かだ。実際に、弊社でもコロナ禍の最中に採用した社員の大半が2年ともたずに退職していて、これは待遇とか商材とかの問題だけでなく、勤務する環境にも原因があるのだろうと考えた方がいいかもしれない。
論文によると、リモート・ワークによる生産性や満足度は多く研究されてきたが、孤独などメンタル・ヘルスへの影響は未解明だったという。そこで、大規模調査(N=588,322)を実施したところ、リモートでの業務が十分に可能な職種の人は、パンデミック後に1日あたり +1.1 時間の自由な時間が使えるようになったが(非リモート職種比)一日中誰とも会わない日が 50 % 増加し、そもそも他人との接触がオンラインですらゼロという割合が 72 % 増加した。特に一人暮らしの人は影響が10倍以上となっている。これにより、特に一人暮らしの人は不安や憂鬱などとメンタル・ヘルスの悪化が増加しているという。そして、この変化は生成 AI の普及や政治的な状況の変化や周囲のコロナ禍による影響では説明できず、リモート・ワークによって説明するのが妥当であろうと推定されている。
この結果について、論文の著者による解釈では次のように説明されている。なぜ、人はリモートを好むのに、メンタルは悪化するのだろうか。まず、通勤時間が減るといった短期のメリットは即時に実感できるが、孤独やつながりの喪失といったコストは遅れて蓄積していくという違いがある。そして、人は他人との挨拶や会話といった短い社会的接触の効果を過小評価する傾向があるので、これらの積み重ねがたとえメンタルの維持に必要だとしても、主観的には些細な習慣的ふるまいとしてスルーされてしまうのだろうという見立てだ。そこで、著者はリモート・ワークを止めるという極端なことは推奨していないが、ハイブリッドの働き方は推奨しており、ハイブリッド勤務で多くの社員の出社日を同期させるなど、孤立を減らす工夫が必要だとしている。弊社でも、特に部署の単位で実施する定期的な会議は、オンラインではなく敢えて出社して一堂に会しているケースがある。
一般論として言えば、完全なリモートに何か割り切れないものがあるのは事実だ。場所に固執するわけではないにしても、採用面接から内定式、実際の勤務、そうして退職の手続きに至るまで、いちども生身の本人と顔を合わせたことがないような人物を「同僚」とか「上司」とか「部下」と呼ぶことには、やはり情緒的であることは分かっていながらも何か疑問や割り切れないものがある。なので、たとえば WordPress で有名な Automattic 社は企業として登記はどこかにしているものの、本社機能をもつ所在地や施設は存在しないようであり、あれを「会社」と呼ぶことにはどうも違和感を覚える。もちろん、彼らにしてみれば自分たちの組織(少なくとも組織であることは僕も否定しない)が会社であるかどうかは問題ではないというのかもしれないし、事業の運営にとってはどうでもいいことだということなのだろう。これもこれで一つの見識だと思う。ただし、それにはそれなりに特別なマネジメントや管理手法というものが必要であって、たぶんここ最近のマット氏(WordPress の代表者)はそれに失敗しつつあると思う。