Scribble at 2023-06-10 08:30:05 Last modified: 2023-06-10 08:33:39

MarkupDancing で何度か書いていることだが、経営学というのは、どれほどハーヴァードで精緻な議論をしていようと、しょせんは100年くらいしか歴史がない、僕に言わせれば「勃興期」の学問だと思うんだよね。だから、未整理で体系がなく、したがって山師がいくらでも入り込める余地があって、実際に self-help 系の著作や management の著作などを眺めたり、あるいは書店でビジネス本と呼ばれている棚を眺めていると、だいたいの印象として8割くらいは猫のゲロみたいなものだと思う。

そういや、経営本のトレンドみたいなものをフォローしていると、10年ほど前から企業に「デザイン思考」を採り入れるなんていう御託が流行したおかげで、こんどは「哲学」を活用しようなんて馬鹿が増えているようだが、冗談でなければ、そういう企業は俺を年収5,000万円くらいでヘッドハントしてみてはどうか。そのていどの待遇なら、大学院で培った見識を仕事に初めて活用してやってもいい。ただ、最初から技術者としても有能なので、本当に哲学を活用しているかどうか凡人に見わけはつかんと思うがね。

半分は冗談だからこの話はいいとして、そういう未熟な分野に過ぎない経営学では、僕らのような哲学者でなくともクリシンみたいな揚げ足取りに慣れた人ならたちどころに「胡散臭い」と気づくような著作が、毎年のように出版されていることが分かるだろう。たとえば、その典型は、「業績の高い会社には、これこれの福利厚生がある」などと大発見であるかのように喚くガキが書いたような本だ。

そういう愚かな本が拠って立つ中学生の自由研究みたいな自称「調査」というのは、業績の出ている有名企業とか、上場企業とか、あるいは話題の企業に出向いて、そこの広告担当とかマーケティングや広報や企画担当の暇な取締役や部門長と面会して、彼らのサクセス・ストーリーとやらを聞き書きして出版される。そもそも、上場企業であろうと社外に開示する情報というものは「開示できる情報」だけであるといいう当たり前の事実から言って、そのような情報が、嘘ではなくとも全ての事実を包み隠さずに開示した成果であるという保証など何もないわけだ(いや、上場企業の多くも粉飾などをやっている事実が幾らでもあるので、嘘でないという保証もない)。

それから、そういう聞き書きみたいなビジネス本のもう一つの問題は、おおよそそういう本の 99.9% は原因と結果を取り違えているということにある。

「社員とその家族を大切にしている」

「社員とその家族が幸せを実感している」

こんなことは、そもそもその企業の業績が高くて給与等の待遇を改善したり福利厚生に遊び金を使う余裕があるからであって、その企業が新卒に年収1億円を出したり社員の半分が長期休暇で欠勤してもいいような大名商売をやったからこそ業績がアップしたわけではないのだ。僕はどこかの会社でたびたびあった実例だけではなく、他の会社にいる人々から見聞きしている、企業の部長としての実例を幾つも知っているからこそ言えると思うのだが、たとえば事業所の内装を過剰にデザインなんてしても、社員の離職率や会社の業績とは関係がないということが(少なくとも僕の経験の範囲では)分かっている。内装工事が終わったお披露目として、取引先や顧客企業の人々を招いてレセプション・パーティなんてやってたりする場合もあるわけだが、その後の売り上げとは何の関係もないどころか、たいていは逆にそこをピークとして下がっていく。しかし、考えてもみれば当たり前であろう。巨大な売り上げアップもしていないのに、手元にいくらかのお金があるというだけでそんなことをしたところで、残るのは単なる借金だ。そして、取引先や顧客企業には、逆にそんなことをすると「受注金額を引き上げても大丈夫」とか、「発注金額を押さえても大丈夫」だと舐められるだけなのである。

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