Scribble at 2022-11-20 19:25:10 Last modified: 2022-11-20 21:40:16

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覚えやすい店名の付け方、オープン前の集客方法、割引券に対する正しい認識、お客様との信頼関係を築くツールのつくり方、メニュー価格の上手な改訂方法、客単価と来店頻度の両方をアップする回数券の設定方法……など、個人サロンの売上アップノウハウを惜しみなく解説!

お客様がずっと通いたくなる小さなサロンのつくり方-エステ・アロマ・ネイルの癒しサロンをはじめよう

本書は2011年に発行された初版であり、現在は2018年に出た「最新版」というのがあるらしい。それでも、この初版に書かれている内容は現在でも通用するものがあると思う。この本はエステやアロマといったヒーリング系のサロンを始めるにあたっての色々な手続きや準備を指南しているのだけれど、B2C のウェブサイトを設計するに当たっても参考になる点が幾つかある(もちろんサイトの話も少しは書かれているが、それとは別の、広告や宣伝や集客について書かれた内容の方が参考になるということだ)。幾つか紹介しよう。

まず、店名について書かれている内容(わかりにくいと覚えてもらえない)は、オンラインのサービス名や商品名にも当てはまる。このところサービス名どころか社名すら、特にアメリカではわざと typo のようなスペリングを採用していたりするのだが、そういうスタートアップが成長した事例は殆どない。Tumblr は有名な方だが、これも結局は買収されたし、ブログ・ホスティングなのか Twitter の真似事なのか、あるいは写真共有サイトなのか、曖昧なサービスだった。他にも、Hacker News などではスタートアップが自社宣伝を兼ねてサイトを投稿したりするのだが、その手の奇妙なスペルリングのサービスが大きな話題となった試しなんて殆どない。要は、そういうネーミングをする理由が、「既にドメインが取られていた」という下らない消極的な事情だからだ。そんな後ろ向きの理由でタイプし辛いスペリングを採用して、他人に覚えてもらえるわけがなかろう。もちろん、社名にすら奇妙なスペルリングを使うところもあるが、当然ながら設立1周年記念日を迎えられる会社は1%もない。

そして、これは英語だけの話ではなく日本でも通用する。僕は当社のコーポレート・サイトで受けている問合せフォームからの通知を15年以上に渡り、事実上の1次審査役として眺め続けてきている。もちろん、商談に結び付くような通知は殆どなくて(クレームも殆どない)、その大半はご承知のとおり営業メールだ。なので、ここ15年くらいに起業した会社のサービスとか社名のおおよそのトレンドを、問合せフォームからの通知という制約の中ではあるが、僕なりに把握している。そのうえで言うと、ここ10年くらいのあいだに増えている社名やサービス名が、具体例を出すと気の毒なので他の表現を使うなら、

・株式会社いつでも

・おそらく株式会社

などといった、へんてこ副詞社名だ。三流のコピーライターがよくやる、小学校の国語に書かれているような「異化」といった小手先テクニックを弄ぶ愚劣なネーミングだ。もちろん、こんな社名の会社が何年も事業継続できた試しなどない。また、サービス名でも(仮称で言うと)「営業支援『あるまじき』」とか、「ITサポート『われらが』」とか、アホみたいな連体詞を使ったものがたびたび見受けられる。そういや、Apache のモジュールでも、都内のバカがこういう変な日本語でネーミングしてたことがあったように記憶しているが、もちろん知らないあいだに消えてなくなっているだろう。いや、実際には知らないのだが、どうなったのか検索してやる義理もないし、そういう些末な間違いなど大したことはない。ていうか、もしプロジェクトや会社として消えてないなら、消えて事実の方を俺様の推測に合わせろと言いたいくらいだ。

次に、僕もグルーポンが登場したときに「3年ともたない」と言い切ったのだが、クーポンや安売りというのは商売において下策であると書いているのも正しいと思う。よって、やるならこっそりやって、たまたまチラシを手にして訪れた人が「あ、クーポンがある」と見つけて得をするくらいのものでいいと説明している。僕も全く同感だ。そもそも、安売りすると安いあいだしか客は来ないものだ。こんなことは、僕らのように実家が商売をしていたような人間なら常識として知っている筈のことである。それでも定期的に特価をしないといけないのは、やはり地域で競合どうしが一時的にでも客を奪い合うためである。常に安い値段を付けていてもインパクトはなく、ときどきでも宣伝して特価セールをやるというプレゼンスの確保が、地方の小売店どうしの競争でも必要なのだ。当然だが、常に特価のキャンペーンをやったら倒産するので、どこの店であっても極端なことはできない。そして、そんなことをやっても固定客になったりしないことをみんな知っているのである。

それから看板について書かれている話だが、これもウェブサイトの設計について参考になると思う。それは、「店の名前よりも、何をしてくれる店なのかのほうが大事」ということだ。コーポレート・サイトのデザインでも、意味不明なキービジュアルの巨大な写真やイラストをトップ・ページに貼り付けたりする愚行が、今でも罷り通っている。それは客商売の経験もない人間が、ウェブサイトのデザイン(設計)を見てくれの制作だと誤解して、芸大を出たくらいで教えているからだ。日本では、いまだにこういう発生論的な勘違いと言うべき、初手の間違いが是正されない。そして、是正されないまま教わった人間が制作会社に入って新人を教えたりするので、悪循環が解消されないわけである。

B2B のデザインでもたいてい強調されるポイントだが、会社やサービスのセールス・ポイントは、要するに顧客にとってのベネフィットだけである。そして、最初から目的をもって検索して訪れる人々に対して「ニーズを掘り起こす」などとマーケティング主導のスケベ根性で無理やり関心を誘導するようなコンテンツや、意味の分からないイメージだけを前面に押し出した幻惑的な演出など、結局は大半の優良顧客になりえる人々を締め出しているだけの愚行なのだ。

それから、最後に一つだけ紹介しておくと、自ら客を呼びこむ必要があるということだ。これも参考になる。よくコーポレート・サイトのテキストやリードやタグラインで見受けるのが、「お客様」という表現である。しかし、こんな言葉を見て誰が自分のことだと思うだろうか。表通りを歩いていて、背後から大声で「おーい、そこの日本人!」と言われたら、変なことを言う奴だなと振り返るかもしれないが、みなさんは自分が呼ばれているとは思わないだろう。「お客様」とは誰のことなのか。誰もかれもが自社のサービスを必要とするとは限らないし、こっちも誰であれ仕事を依頼してほしいとは思わない筈である。弊社の場合、電通グループや JR 西日本コミュニケーションズといった広告代理店からの依頼でウェブ・コンテンツやサイトの制作とか運営を請け負っているわけだが、このところテレビでも宣伝が出ている「2万円でホームページを作ってくれるクラウドワーカー」みたいなコマーシャルを観た中小企業の経営者が、電通の仕事をしている制作会社に自分の会社のサイトを2万円で作ってもらえると思っているなら、それはどう考えても思い違いでしかない。いかなる理由があろうと(たとえ社長の知人や株主であろうと)、そんな発注金額で弊社は絶対に仕事をしない。もし経営者の知人や株主だからといって、そんな費用で仕事をしたら、簡単に言えば背任罪である。あのような価格設定は、世間知らずで実勢価格を知らないという理由もあろうが、要するにどこの馬の骨ともわからないクラウド・ワーカーという個人だからこそ可能なのであって、つまるところ近所の兄ちゃんに適当な小遣い銭で手伝ってもらっているのと同じなのだ。企業の「案件」とかビジネスなどではないのである。

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