Scribble at 2022-10-19 08:26:00 Last modified: 2022-10-23 07:48:47
Sakurai のテキストをスキャンして「自費出版」した海賊版だ。アマゾンで膨大な数のクズに悩まされている僕らは一目でわかるが、海賊版でも中身が読めたらいいなんて気楽に買ってしまうと、もちろんたいていは酷いことになる。いま「スキャンして」と書いたが、それは良心的な詐欺師の場合である。大半は、メモ帳スパムと同じく中身なんてノート状の罫線しか印刷されてなかったりするらしい。
もちろん Amazon Japan には通報しておいたが(れっきとした著作権法違反だし、たぶん詐欺でもあろう)、アマゾンは対応しないのだろう。やる体制があるくらいなら、これだけの notebook, design paper, graph paper, password journal スパムなんて横行してるわけがない。
それにしても、洋書で量子論のテキストを買って勉強しようという学生さんには、円安という事情も含めて難儀な時節となっているようだ。大雑把に言って、量子力学の概説をうたう本(Kindle 版じゃなくて)で3,000円以下の価格で販売されているのは、要するに crank による自費出版だから無視した方がいいと思う。僕も自費出版を予定しているので自縄自縛な感じもするが、やはり "quantum mystery" だの "quantum world" だのという「親しみのある」タイトルをつける本は、どこの国でも修士号すら持ってない素人がブルーバックスや VSI みたいなものを読んだだけで適当に書いてる可能性が高いからだ。
かといって、正規のまともな教科書ともなると2万円ていどはかかるという印象がある。これは数学でも生物学でも事情は似たようなものだろう。一つの学科について self-contained なテキストであればなおさら、授業を受けるのと同等のコストを払うべきだという見識で値段が設定されているようなので、もともとアメリカの大学で使うテキストは、大部であることに加えて価格の設定が数万円ほどする。それが円安で更に割高となるのだから、意欲のある学生に限って大きな負荷がかかる。よって、いまや東大生の6割が親の年収で数千万円という統計もあるらしいし、日本には地元の子供の学業を支える名士もいなければ行政のサポートもないのだから、果たしてネットにアクセスするくらいの余裕はあっても高度あるいは厳密な内容で勉強したいと思っている若者(だけでなく僕らのような中年や高齢者でもいいのだが)には色々なストレスがかかる状況だ。あまり言いたくはないが Sci-Hub なり Library Genesis のような海賊版のサイトが次々と立ち上がるのも無理はない。
ただ、本当にこれで勉強したいという本があるなら、仮に Springer や CRC から2万円で販売されているとして、それを何とか自分にできる方法で手に入れることも検討してもらいたい。上記のような海賊版のサイトで(もしアップロードされていればだが)PDF のコピーを手に入れるだけなら、簡単な話である。量子力学や量子コンピューティングのテキストなんて、それこそ2000年から2020年までの20年間に発行された出版物だけに限っても数十冊が数分でダウンロードできる筈だ。それこそプロパーの研究者ですら大学の自室に揃えられないくらいの膨大な冊数に相当する電子書籍を1日でダウンロードできてしまうだろう。でも、そんなことをいくらやっても積ん読と同じだろう。次々とタスクを求められるアメリカの大学生でも、せいぜい単行本を1日に3冊から5冊くらいしか読めない。電子書籍を1日に50冊ずつダウンロードしたところで、速読などと言われるインチキをやってるわけでもなければ、君らはそんなに読めるのだろうか。
それから電子書籍として購入することへ一概に反対はしないものの、僕はやはり「座右の書」として印刷物のテキストを手に入れることを勧めたい。電子書籍は効率がいいなどと言われるが、家でも外でも同じ本を読み続けるなんて本当にそんな生活を送っている人がどれほどいるだろうか。紙の本を家に置いて、それを読む生活がそんなに非効率だろうか。君らは外出しても同じ本をタブレットでずっと読んでるのかね。gifted や talented と呼ばれている事実上の自閉症患者なら場所の区別なく決まった物事にだけ固執するのはわかるが、他に人としてやることないのかな。
それから、まだ過渡期だし媒体としては黎明期と言っていいので一般論かどうかはわからないが、幾つかの実験や調査や僕の何年かにわたる観察によると、次のように言えると思う。(1) 電子書籍で読んでも内容が記憶や理解として定着し辛いという実験結果がある、(2) 電子書籍は書き込みできない(電子書籍のコメント機能は書籍への書き込みとは認知的に何かが違うらしい)、(3) しょせん電気がなければモバイル・デバイスなんて犬のウンコと同じ、(4) 電子書籍だけで勉強したという IT のエンジニアに有能な人間はいない(既に「デジタル・ネイティブ」なんて言葉が流行してから10年以上が経過している。当時の小学生は advanced engineer と呼ばれてもいい年齢になっている筈だが、電子書籍だけしか使ったことがないという人を見たことはない。そういう人がいれば、たいていは自意識過剰なブログ記事を書くはずである)。よって、どうも電子書籍とホモ・サピエンスの認知能力なり生理機能とには、特定の条件では有効だがそれ以外では紙の書籍に劣るという傾向があるらしいと言える。もちろん紙にも利点や欠点が色々とあるので、紙だろうと電子書籍だろうと、それらの媒体とも違う他の特性をもった何かが新しく登場してもおかしくない。巨乳の萌えキャラ VTuber が出てくる動画とかで勉強したい小僧も多いだろう。なので、僕は紙の書籍 vs. 電子書籍という偽の対立を煽っている連中は思想のレベルで愚かだと思っているし、ぜひ意欲と能力ある人々は、そういう alternative を検討してもらいたいと思う。ただし、巨乳の VTuber 動画はいらん。
紙であれ電子であれ、多くの大学テキストは数万円する。2万円の商品は、たいていの人にとっては高額である。もちろん、僕らのように給料をもらっている大人にとっても、2万円の商品を買うというのはキャッシュ・フローとして家計へのインパクトが大きい。これに対して、その本を2年払いの月賦で毎月1,000円ていどずつ払うというなら1ヵ月分の支出に占める割合が少なくなる。2年後も物価水準が大きく変動せずに給料ももらっているという重大な仮定つきだが、多くの人々がローンや月賦払いを契約したり、企業が高額設備を購入せずにリースで使うのは、これが理由である。よって、1週間だけアルバイトして即決で買ってもいいわけだが、そういう時間がない高校生(高校生が洋書で量子力学の勉強をしてもおかしくはない。一時期は、珍しいからか小学生に量子力学の教科書を書かせた出版社もあるが、あの程度の理解なら灘や開成や東大寺や筑波大付属といった高校には何人もいる筈である)は、親にクレジット・カードで買ってもらい、小遣いから毎月1,000円を差し引いてもらうという交渉もできるだろう。小遣いをもらっているような家庭の子供であれば、だが。