Scribble at 2022-04-27 09:47:09 Last modified: 2022-04-27 10:07:46
しかし、デジタル化の進展により印刷需要が伸び悩むなか、同業他社との競合もあって売り上げは減少傾向で推移。得意先のセールス・プロモーションと連携したアプリケーションの開発のほか、動画やWebサイトの制作も行うメディアミックスサービスを展開していた。そうしたなか、2020年以降は新型コロナウイルスの感染拡大によるイベントの中止・延期などが相次いだ影響で受注が大きく減少。2021年12月期(決算期変更)の年売上高は約14億3000万円にまで落ち込み、2期連続で大幅赤字を余儀なくされ、債務超過に転落していた。この間、金融債務の返済負担が重荷になり、取引金融機関に対して返済猶予(リスケジュール)を要請していたものの、その過程で過年度における粉飾決算が発覚。追加の金融支援が限定的となるなか、採算改善も進まず、自力再建を断念した。
帝国データバンクの「大型倒産」として紹介されるから珍しい事例のように見えるわけだが、印刷業者がウェブ制作に手を出して両方の事業が立ち行かなくなってるという事例は、おそらく5年ほどのあいだで増えている筈だ。もちろんコロナ禍でイベントが中止されて関連するウェブサイトの開設も頓挫するといった事情もあるけれど、他にも事情は色々ある。たとえば Flash (Player) が実質的にウェブのメディア・プラットフォームとしては放棄されたことで、自力で線形代数を計算できないデザイナーは HTML5 + JavaScript でのコーディング業務へ移行できなかったり、VR で使うモデリングの知識や経験がないデザイナーも受注の与件が変わってくれば、何もしてなければ受注できるわけがない。LPIC-1 レベルの素人がサーバを管理しているような制作会社だと、AWS や Azure や GCP を初めとする独特な知識が必要な IaaS で動く納品レベルの運用環境を数か月で習得し構築するのは困難だろう。
よく、主軸となる事業を三つ維持すると安心だと言われたりする。前職のコンテンツ制作・運営会社でも、主軸となるサイトを三つ運営していたし、現職でも顧客の広告代理店を三つの系統(電通系、博報堂系、独立系)で開拓していたこともあった。もちろん、こういうことには厳密な定義もノウハウもありはしないので、たいていの経営者やマネージャが思い描いていることの共通点なんて、せいぜい「三つ」ということしかない。三つの何を維持すれば安心なのか、そんなことは誰も知らないのだ。
実際、顧客を三つの系統で開拓しておけば、その三つの系統から受注する体制がとれるとは言うものの、このプランには致命的な欠陥がある。それは、現今の状況でもわかるとおり、その業種そのものの景気や需要が失速していると、どこからも一斉に仕事が入ってこなくなるからだ。たぶん、既存の顧客が業種として立ち行かなくなってくると、業績を回復するのは非常に困難だろう。これまでウェブで広告を展開してこなかった企業がコロナ禍でメディアをウェブにも広げて、もちろんだが広告代理店自身がウェブでの実績を出してしまうと、早い話が「芸能人を使って莫大な予算を組んだテレビのコマーシャルや新聞広告なんて、実はいらねーじゃん」という話になってしまうからだ。従来の手法が効果的な業種とか商材も、確かにあろう。でも、ウェブで展開する安上がりな広告を制作して予算の大半をリスティングとか SNS の運用に回した方が効果的な業種や商材もあるわけで、いったんその方が有利だと気付いた顧客は、もう坂道アイドルやジャニタレがケツを振るような昭和世代のプランに決裁の判子など押してはくれまい。
ということで、印刷業とウェブ制作業とでは、やはり似たようなリスクがあるということなのだろう。しかし、かといって全く従来の経営手法や商流が活用できない未知の事業へ拡大するのは、或る意味ではチャレンジングだし、企業経営とは GE を見てもわかるようにそういう面もあるのだが、多くの中小企業にとってはリスクが大きすぎる(零細企業は、どのみち一つの事しかできないのだから、立ち行かなくなれば倒産する〈べき〉である。それは市場の健全な動きだ)。それゆえ、たとえば印刷業とゲーム開発くらいの違いであればかろうじて双方のノウハウが他の業務に活かせるかもしれないし、それは会社によって色々と(属人的な事情もあろうが)工夫があろう。