Scribble at 2021-12-25 16:59:04 Last modified: unmodified
まったくの偶然で、神戸大の松田毅先生らが編集された "Risks and Regulation of New Technologies" という著作が Springer から出ていたことを知った。厳密に言えば松田氏は指導教官でもないし、松田氏の講義やゼミを履修したことはないのだが、懇話会などでいろいろとお世話になったし、確か一つだけ何かアドバイスをいただいて単位と関係なくレポートを提出する約束をした覚えがあるので、おそらくご本人にしてみれば迷惑な話だろうとは思うが、ひとまず「先生」と表記しておく。
目次を眺めていると、松田先生は "Gradation of Causation and Responsibility: Focusing on “Omission”" という論説を収めている。僕も修士の頃に手を付けかけた(そして止めた)のだが、もともと法学部で刑事法学を専攻していた事情もあって、ハートとオノレの著作などをもとにして社会科学の「因果関係」の理論を丁寧に整理して定式化してみるのは、興味深い課題だ。そして、他にも物理学や経済学といった個々の分野で論じられている特殊な脈絡での因果関係の議論を整理するというメタ・レベルのリサーチにも関心はある。
ただし、このような研究において採用するアプローチには、往々にして当人の自覚的な仮説なり無自覚の偏見があることは確かだ。特に、これらの研究で採用されることが多い因果的説明の「レベル」という概念を、これまで何人かが仮定して論説を出しているけれど、はっきり言って説得力のあるものが一つもないという印象がある。とは言え、Douglas Ehring 以降の preemption などを有向グラフなどのモデルで基本的な考え方から整理して検討し、具体的にアスベストの健康リスクという話題に応用しているという、日本語でも公表を望みたい論説になっている。正直、日本で出版されている philosophy of causation の本は初歩的な(そして哲学的な基礎の議論が殆どスポイルされた)ものばかりで、もうそんなレベルの著作はいくつも必要ではない。日本人の読者に向けて提供するつもりなら、既にマリオ・ブンゲの『因果性』もあるのだから、それら既刊の著作物をちゃんと重版していけばいいのだ。また、因子分析や統計学の分野での議論も、パールの著作の翻訳も含めてかなり出ている。今後は、本書に収められているような、両方の分野を具体的に組み合わせた成果を積み上げて、このジャンルの意義を問うなり強調するなりしていく段階だろう。