Scribble at 2021-04-02 09:29:27 Last modified: 2021-04-02 09:33:26

学部時代の恩師(僕は法学部出身なので個人的に指導を受けたのだが)から、藤澤令夫氏の『実在と価値』という本を見つけたら譲ってもらいたいと頼まれたことがある。もう30年くらい前だ。もちろん、それから後になって、2000年には岩波書店から『藤澤令夫著作集』(全7巻)が出ていて、その中に『実在と価値』も含まれているため、古本を探す必要はなくなったと思っている。恐らく恩師は既に手に入れて手元に置いているだろうと思うし、著作集全巻を注文しただろうと思う。

学部を出てから修士で関大へ移り博士で神戸大へ移った後も、当たり前だが約束なので古書店へ入るたびに『実在と価値』がないかどうかというアンテナそのものは常に張っていたのだが、一向に見つからなかった。もちろん、いまなら古書店横断の検索サイトもあるし、そもそも古書店がアマゾンへ出品しているので、いま参考にアマゾンで検索してみたら、筑摩書房から出た初版は2,000円ていど、そして岩波書店から出た著作集の一冊では10,000円ていどで販売されているから、金に糸目を付けなければいくらでも簡単に手に入る。僕は経済オプティミストでも山形浩生氏流のリバタリアンでもないが、ひとまずこれはこれで我々凡夫にとっては良いことだと言ってよいのだろう。

前にも書いたことはあるのだが、具体的に竹尾先生へ藤澤さんの話は聞いたことがないし、哲学を志す者の末席にいて下らない党派性の話題など些事としか思えなかったのだが、先生の言葉の端々からは、なんとなくライバル意識のようなものは漂わせていた気がする。もちろん、Kyoto Prize の選考委員として同席されていたという事情もあったろう。なお、門下生として先生には申し訳ないが、書かれたものとしての魅力について言えば、藤澤さんの文章は圧倒的だと思う。プラトンの薄い翻訳書で末尾に書かれた1項目分の注釈を読んでいてすら、1本の論文を読んだくらいの〈プロダクト感〉というか、ここに書かれるべきものが適切かつ的確に書かれているという、まさに力のようなものを感じる。こういう文章が書ける哲学の研究者は珍しい。それゆえ、はっきり言って怖いのだが、たぶん小平の英雄とか岸くんの同僚であるお勉強君のような小僧には30年経っても書けない文章だと思う。そして、そう感じるセンスをもっている自分にも、やはりそれなりの自負を感じるよ。悪いか。

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