Scribble at 2021-02-05 10:24:34 Last modified: 2021-02-05 10:37:42
「生まれてこないほうがよかった」という思想は、人類二五〇〇年の歴史をもつ。本書では、古代ギリシアの文学、古代インドの宗教哲学、ブッダの原始仏教、ゲーテやショーペンハウアー、ニーチェなど近代の文学と哲学、そして「誕生害悪論」を説くベネターら現代の分析哲学を取り上げ、徹底的に考察。人間がこの世に生まれてくることは誤りであり、生まれてこないようにしたほうがよいとする反出生主義を世界思想史の中に位置づけ、その超克の道を探っていく。反出生主義の全体像が分かる本邦初の書である。
タイムリーと言えばタイムリーな出版だ。その割にプロフィールが未だに大阪府立大教授となってるのは気の毒な話だが、そういう些事はいい。ひとまず、死にたがってる若者が続々と増えているらしき当世にぴったりの出版であろう。だいたい、海外で一通りの議論が終わってアンソロジーやサーベイ論文が出た後に、ここの東アジアの辺境地帯では、先鞭を付けた古典的な業績が翻訳されたり、『現代思想』で特集されたりして、プロパーがこの手の(失礼な話だが)まとめ本のようなものを出して哲学史なり概念史なり論争史の中に〈プロット〉するという、あいかわらずの事務手続きみたいなものが終わる。そういう予定調和のようなものとして受容された成果としては、冷笑するよりも、ひとまずこれまでと同じく歓迎することが相応しい態度というものだろう。
もちろん、企業の実務家として、そういうまとめ本の出版や事務手続きをバカにしているわけではない。僕だって NDA の締結とか、巨大上場企業の馬鹿げたキャンペーン企画で使ったウェブ・サーバのログからレポートを作ったり、色々な事務作業を(それなりの品質で)毎日のように執り行っている。そして、とりわけこの国で仏教が伝来してからこのかた、哲学ではこの手の事務作業として外来思想の咀嚼が延々と続けられてきた中で、それなりに独自の思想なり主張が展開されてきたのも事実であろう。エピゴーネン稼業が1,000年以上も続いてりゃ、そこそこのものになるというわけだ。