Scribble at 2020-10-02 22:33:51 Last modified: 2020-10-02 22:49:38

このところ急速に進行している「IT企業」と「ネットベンチャー」と「ウェブ制作会社」の根本的な乖離について、僕は当然だと思っているし、加えて大いに歓迎している。

これら三つの業界や事業は、コンピュータを使ってウェブに関わっているという些末な理由だけで同一視されてきたわけだが、そもそも《商圏》が違っているし、もっと基本的な理由で区別されてもしかるべきだった。IT企業の商圏はネットベンチャーや public sectors であり、ネットベンチャーは要するに EC サイトや SNS だったりするわけで、一般消費者や他のネットベンチャーが商圏にあたる。そして最後にウェブの制作会社は、もちろんコーポレート・サイトを制作するならどこでも顧客になりうるが、恐らくこの先の10年くらいで市場に残るのは「ホームページ屋さん」ではなく広告代理店を相手にする弊社のような会社だけとなると予想しているので、商圏は簡単に言うと広告業界である。

こうした乖離が進むと、特にネットベンチャーとウェブの制作会社は、或る意味で《身の程を知る》結果になる。たとえば、ブロックチェインや機械学習といったテクノロジーについて言えば、もちろんこれらを手掛けているのは IT 企業であり、ネットベンチャーは GREE やサイバーエージェントが協業だ投資だと言っていようと、所詮はユーザにすぎない(とはいえ、それらのテクノロジーに提供側でも利用側でも関わっていることだけは事実だろう)。

だがさらに、ウェブの制作会社というプレイヤーは、恐らく100年が経過してもユーザにはならない。そんな必要はないからだ。もちろん、ウェブ・ページをレイアウトするのに AI を使ったり、あるいは何か他の先進的なテクノロジーを使う可能性は考えられるが、実はその可能性が実現するということは、ウェブ制作という事業が消失するということと同義なのである。自動でウェブ・ページをデザインしたり、ウェブ・アプリケーションを自動出力できるようになれば、電通やアクセンチュアの社員がボタンを一つ押すだけでビジネス・アーキテクツやキノトロープやバスキュールが数千万円で制作・実装するよりも遥かに、トップ・クライアントの KPI にとって最適(かもしれない高品質)なウェブ・コンテンツが(たぶん数万円で)出来上がるのだから、是非を語る必要など微塵もない。そして、残念ながらウェブの制作というものは、そういうレベルで「リプレース」されてしまうていどの価値と品質しか、この20年のあいだを通して市場に提供できなかったと言える。よって、現在までは自業自得と言えるが、ここから先の問題としてウェブ・コンテンツの制作という業界や事業が自壊するかどうかは、いまの担い手らをマネジメントしている役職者レベルの人間がどういう仕事をして、どういう人材を採用して、どう育てるかにかかっている。ネットベンチャーにいる人間として、僕はそういう業界の深刻な状況(もしこれを「深刻」だと評価するなら、だが)についてわずかな責任を負っている一人かもしれないが、将来に対しての期待も責任もないので、まぁ頑張ってくれとしか言いようがない。

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