Scribble at 2020-09-21 08:07:23 Last modified: unmodified

私に言わせれば、「はいはい、指数関数が垂直上昇といえるほどの増大なのは誰でも(一部の政治家を除いて?)百も承知。でも、もっと重要なのは、ほぼすべての指数関数現象が『リソースをあっという間に食い尽くして止まる』ということではないですか? そこに言及しないのは説明不足ですよ」となります。

まだシンギュラリティなんて信じているのですか? AIと指数関数の限界への無知

技術的特異点(technological singularity)では、計算能力が指数関数的に上昇してゆくという。そして、結果として人の知能を未知の時点で越えてしまうらしい。上記の記事で、こういう特異点を超えるような能力の AI に疑問を呈している著者は、単純な理由を指摘している。つまり、指数関数的に計算能力が向上しても、それを支えるリソースがすぐに足りなくなるというわけである。現在、アメリカで運用されているデータ・センターの年間消費電力は、2020年の推計で730億 kWh とされている。アメリカで電気代を計算するのは州ごとに複雑な処理となるが、おおよそ kWh あたり10円として年間に7,000億円と試算できる(*1)。しかし、現状のデータ・センターのサーバをすべて稼働させてもヒトの脳と同等のパフォーマンスは出せていないし、それどころかそもそも「知性」とは何なのかというモデル自体が存在していないので、パフォーマンスだけの問題に帰着できないのは明らかであろう。なんにせよ、指数関数的に急激な上昇に伴うエネルギーの消費に現在の電力会社が耐えられないのはもちろん、それを現に使う側(政府なのか IT 企業なのか、それともオレゴン州の山小屋で AI を自作したパパなのかは知らないが)も莫大な資金を必要とするだろう。したがって、指数関数的にパフォーマンスが向上してゆく機械が独りでに《育つ》ことなどありえないし、それを支える資源や原資が天空から降ってくることもないわけで、現実に起きないことを前提に技術的特異点を語るのはもちろん、それを批判することにも実は大して意味がないのである。

冷静に考え直すと、ヒトの脳には神経細胞が「いっぱい」ある。それは事実だが、しょせんは有限個しかないのだ。また、仮に AI の処理能力がヒトの「知性」の instantiation とされる脳の処理能力を超える瞬間がどこかに「技術的特異点」として想定されているからといって、その到達点が指数関数的に表される何かである必要などない。現在の計算機工学やソフトウェア工学の経緯から見たスケーリングで順当と思われるようなペースで処理能力が向上していったとしても、その向上が原理的に頭打ちになるというア・プリオリな根拠がない限りは、そのうちヒトの脳の処理能力に追いつくのは当たり前であろう。それの、いったい何が悪いのか。

(*1) https://eta.lbl.gov/publications/united-states-data-center-energy

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