Scribble at 2026-08-06 06:44:22 Last modified: unmodified
前年の実績と比べて「急増」と言ってるだけで、別に統計学としては子供並みの理解でしかないわけだけど、多いのは事実だし、これから増えていくというトレンドも事実であろう。それにしても、この記事で紹介されている東京商工リサーチの解説が著しく的外れだと思うので、ナショナル・クライアントの案件をもつレベルのウェブ制作事業を展開する企業の役職者として、幾つか書かせてもらう。
第一に、「生成AIの普及により、発注側でもデザイン関連業務を短時間・低コストでこなせるようになった。取引先で内製化が進み、受注を失って苦境に立つデザイン会社が多い」というのは、はっきり言って下請け企業の不振を生成 AI で説明するテンプレのような解説だが、はっきり言えば的外れもいいところである。問題なのは生成 AI ではない。なぜなら、これは低コストで短納期の競合が現れたときにクライアントを説得できるプランナーやディレクターの能力を問われている話と同じだからである。デザインやウェブ制作の業界は参入障壁が低いので、フリーソフトでイラストを描いたり編集できるだけの高校生が「デザイナー」を名乗って他人さまから仕事を請けてしまうような世界だ。結局、大昔からデザイン事務所やウェブの制作会社はクォリティや実勢価格の下方圧力にさらされているわけであって、生成 AI が普及したからといって急に短納期や安売りのプレッシャーにさらされているわけではないのだ。もし5年前であろうと、クライアントが自分で安いクラウド・ワーカーを見つけて発注するようになっていたら、デザイン業者はもっと以前に多くが倒産していた可能性もある。そこでクライアントを自分たちの納品物のクォリティや関連業務のサービス内容の質などによって説得できないデザイン会社であれば、相手が生成 AI だろうと高校生のクラウド・ワーカーであろうと負けるのだ。
第二に、「コロナ禍を経てSNS向けなどのネット広告需要が拡大し、紙媒体中心の企業が打撃を受けている」というのも、「コロナ禍」と言えば理屈になると思っているイージーな分析だ。雑誌や書籍の売り上げが低下したり雑誌の休刊などが増えて、紙媒体の広告というニーズそのものが減っているなんてことは、もう20年以上も続いている不可避的なトレンドであり、たぶんいまデザイン事務所で働いている大半のデザイナーが生まれる前から起きていた変化だ。いまさらこういう変化に対応できない企業がいきなり続々と倒産するなんてことはない。もちろんコロナ禍で、本来ならもっと早く倒産していた会社にも補助金がどさくさで交付されたせいで、いわゆるゾンビ企業が生き残っていたという産業経済学レベルの事情はあるが、そういう補助金が潤沢に大半のデザイン会社に出たわけでもない。持続化給付金が出たのは半分くらいの事業者だし、出たとしてもせいぜい200万円前後だ。
ただし、第三の「木造建築工事を手がけるハウスメーカーの倒産が急増」というのは、確かにインテリアや照明などのデザインを手掛ける事業所には大きな影響があろうと思う。実際、円安、インフレ、人材不足、事実上の住宅バブルの再来などによる買い控えなどで、ハウス・メーカーの倒産が増えているのは事実だ。この影響で、デザイン系の事業所が連鎖的に経営や財務の深刻な影響を受けているのは確かだろう。どれほどの大企業や上場企業であろうと、マクロ経済に影響を与えるほどのことはできない(ロビー活動ですらそうだ)。よって、経済のトレンドが変動すれば適応したり対策するしかないのであり、それを望む結果に変えたり止めたりはできないのである。