Scribble at 2024-10-11 08:26:30 Last modified: 2024-10-11 08:43:05
弊社のようなレベルの事業者だと、そもそも生成 AI だけでなく Microsoft Office のマクロだとか、あるいは RPA のようなツールも活用して当然だろうと思うのだけど、まぁなかなかそういうわけにもいかない。ネット・ベンチャーに限らず、どこの組織でもそうだが、過度の、そして急激な効率化を自ら進めていくと、簡単に言えば「余計に仕事をたくさん回される」という経験をみんな知っているからだ。
では、僕らのように常人の5倍を超える、赤い彗星なんて屁でもないレベルの人間は、どうやって無茶な業務量を期待されたり押し付けられないで会社員を何十年もやってきたのかというと、少しずつ生産性とは別のことを期待されるような位置取りに変えてきたからだ。簡単に言えば、顧問などと同じく、僕のような人物が在籍しているというだけで、ネットに関わる技術や知識や経験としての担保になると会社から見做され評価されたら、生産性を度外視してもよくなるのである。僕の場合は、それに加えて或る案件で炎上したという失敗があったから、幸か不幸かはともかくプロフィットの部署からバック・オフィスの情報セキュリティや個人情報保護といった部署に据えられたので、しょーもない徹夜の日数で業績を評価されるような立場から逃げられたという事情もあった。これは、弊社が単なる受託のウェブ制作会社ではなく、自社サービスのサイトを運営するネット・ベンチャーだから可能だったわけで、ふつうのホームページ屋さんだったら、プライバシーマークや社内教育だけを担当するインハウスの哲学者なんて中小企業が雇い続ける余裕などなかろう。過去にあった経営改善計画などの措置で、とっくの昔にクビを切られていたはずだ。
それに比べて、もちろん前職では常に色々なことをやってきたし、勉強だと思って自分でもすすんでやったので、デザイン、コーディング、プログラミング、ディレクション、サーバ運用(ウェブ・サーバからファイル・サーバまで)、それから自社で運営しているサービスの立案なども含めて、恐らくは経営とバック・オフィスを除く大半の業務を担った。そして、そのおかげで今の会社に転職した2006年までの4年間のあいだで(DTP デザインやプログラミングの経験はあったにせよ)、一ヶ月に600万アクセスを数えるサイトを預かるサーバ・エンジニアなりデザイナーなりプログラマとなったわけであった。一ヶ月に600万ということは、日本国内のアクセスとして比較すると、バイトルとか、Abema.tv とか、ジョルダンとか、ZOZOTOWN とかいったサイトに匹敵するわけで、こういうサイトのウェブ・サーバを殆ど一人で運用するのだから(サーバの契約はホスティングだから、ネットワークやハードウェアはサーバ会社が管理しているが)、正直なところ現職で関わっているサービス・サイトなんて比較だけで言えば「カス」みたいなレベルだ。なぜなら、弊社のサービス・サイトは、PV として計って月間のアクセス数が90万弱だからである。一方、僕が担当していたサイトはユニークとして計って月間に600万なので、PV だと最低でも3倍ていど(1,800万 PV)にはなるだろう。
なんで PV を無視していたかと言うと、当時は Google Analytics すら存在しない時代であって、UA に Cookie を食わせてサイト上での動向を測るなんてことは理屈として考えられても、それを実行するだけのリソースなりコストが掛かりすぎたからだ。ウェブ・ビーコンのような仕組みで単純なユニーク・アクセスを記録するだけでもビジネスになったような時代である(「忍者ツールズ」なんてサービスがあったのを覚えている方もいることだろう)。なので、Cookie を食わせてユーザの挙動をいちいち計測などしていたら、それこそ前職のサイトの規模だと今で言う「ビッグデータ」に相当するような規模のデータとなり、それをまず記録するサーバのコストがかかるし(一ヶ月間で、サーバのアクセス・ログが数GBになった。当時のストレージ機器は 500 GB の HDD で1万円くらいだったから、もしアクセス・ログを全て保存すると毎月のように HDD を買わなくてはいけない。当時は DVD もなかったので、CD-R だと毎日5枚ていどを焼く羽目になる)、データの解析にコンテンツを公開しているウェブ・サーバを使うわけにはいかないので、解析専用のマシンを購入する必要もあろう。実際、現職では制作部署で(神戸にある巨大外資系企業だけのために)アクセス解析専用のサーバを社内に置いていた時期もある。でも、それでいったい幾らの売上になったのか、たぶん誰も知らない。結局、ウェブ制作の業界なり経営というのは、広告代理店案件で甚だしいわけだが、こういう昔ながらのイベント屋やアイドルのプロダクションなどと同じく、口約束やどんぶり勘定が横行しているため、そもそも上場を目指すような企業の事業としては不向きである。現に、ウェブ制作会社で上場しているのはほんの数社であり、それは利益が出難い事業であるというだけではなく、そもそもウェブ制作という業界は会計監査に耐えられるような実態にない企業が大半だからだ(もちろん敢えて上場などしない会社も多い。上場して巨大な資金を得たところで、ウェブ制作という事業には、人をたくさん雇って業容を拡大するといった単純な動機を除けば、大きな投資をする理由など殆どないからだ)。