Scribble at 2024-10-04 17:18:03 Last modified: 2024-10-07 19:51:28
これからネット・ビジネスを始めたり、IT ベンチャーと称する会社へ入ろうとする人たちに言っておきたいのは、まず第一に技術的に不可能なことは誰にもできないということ。レイテンシがゼロのオンライン・サービスなんてものは、どんな大企業の R&D や天才数学者にも理屈を考案することはできない。なぜなら、物理的に不可能なことだからだ(そして、たぶん論理的にも不可能だろう)。これを「熱量」だの「誠意」だのとバカ営業やカルト経営者の思い込みだけで達成できるなどと騙されて、自称 IT ベンチャーとかに入社しないようにしよう。そして、こういうバカなことを妄想して目標にしないためにも、基礎的な離散数学の知識が必要で、高校の「情報」なんて実はどうでもいいのだ。あんな「オンライン・マナー」だの「ネット・リテラシー」みたいなものを教えようとするのは、要するに大企業の下請けで働く昆虫のような人材が欲しいからであって、あんなものに騙されていては IT ベンチャーやネット・ベンチャーなんて起業する力はつかない。
そして技術的に可能だとしても、経済的に不可能なことは誰にもできないということ。みなさんは、オンライン・ユーザとしての経験はあっても、そのサービスやシステムを開発したり運用するためのコストについては殆ど推定できないだろう。それは離散数学を知っていても、現実にどういうサービスを展開するためにどれだけのサーバやネットワーク機器が必要で、それが実勢価格としていくらくらいなのか知らないし、知ろうともしないからだ。たとえば、たかだか月額数百円で借りられるレンタル・サーバでも、それを運営するための人員やデータ・センターを借りるコストなどを考えたら、1台のサーバ・マシンでどのくらいの顧客を扱わないと利益が出ないかを考えなくてはならず、そのための投資にはたいてい素人が想像もしていないほどの金額がかかる。少しオンラインのパソコン販売サイトで調べてみるとよいが、相当にハイスペックなマシンでも、しょせん個人が家庭で使うゲーム専用マシンていどは、高くても200万円ていどだろう。試しに、そのサイトで内蔵機器の構成をカスタマイズして、いちばん高い選択肢ばかり設定してみるといい。それに比べて、企業で使っているマシンは社内に設置するファイル・サーバだと、はっきり言って弊社が使っていたような「安物」ですら300万円以上はする。弊社が購入して社内のサーバ室へ設置していた最も高額なサーバは、2U というラック型の筐体で、データベース・サーバとして購入した500万円のものだ。これでも、サーバの価格帯としては「安物」の部類に入る。つまり、こういう資金を調達できないかぎり、金がなければ小さな規模から始める他にないのである。しばしば、クラウドを使えば小規模な事業者でも大きな規模のシステムを実装できるなどと宣伝されているが、それは短期間で収益を出せる見込みがあればの話だ。AWS で1,000ユニットのインスタンスを稼働させるだけなら、そんなもの慣れたら中学生でも設定できる。しかし、仮に m5 のインスタンスを1,000ユニットほど揃えて稼働させると、それだけで月額の費用が9,200万円となる。日本のベンチャーで VC から億単位の投資を受けられる事業者は非常に少ないわけだが、もし1億円を投資してもらっても1ヶ月で結果を出さなくてはいけない。最初から見込みがあって爆発的に利用者を獲得できるならともかく、まずそんなサービスを考案できる人はいない。
そして、最も厳しいのが、われわれはおおよそ凡人であって、凡人にやれることは限られているということだ。不可能とは言わないが、何か切実な動機や目標がなくて、単に金が欲しいみたいなことなら、悪いことは言わないから、できもしない IT ベンチャーやネット・ベンチャーなんか始めるのではなく、地道に就職する方がいい。バカが会社を作って他人を雇うと、それだけ他人の人生や生活を弄ぶことになるからだ。