Scribble at 2024-07-20 11:47:52 Last modified: 2024-07-20 11:52:04

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ここ数年間はサポーターとして月額 $5 で購読してきた Aeon というオンライン・メディアなのだが、そろそろ購読を止めようかと思っている。

もちろん僕の無能ゆえではあるが、殆ど記事を読めていないからだ。ちなみにだが、個々の事項について僕は自分で「無能」だと自覚していることは多い。僕は MD でも当サイトでも幾つかの事項について自ら「有能」だと豪語しているが、自分自身について「万能」だとか「全能」だと言った覚えはない。そんな、やったこともない職業や技能も含めて何でもできるなどという迷妄を口にするのは、単なる馬鹿だ。ということで、ひと月のあいだに記事を1本すら読んでいないことがある。利用していないものにお金を払うのは、これまではサポーターが少なかったようだから、一種の「谷町」みたいな態度で払っていたけれど、いまやサポーターのページを作成して公開できないくらい購読者が増えたようなので、もう僕が谷町みたいなスタンスで購読料を払う必要はない。

ただ、仮に読まなくなったからといって、購読つまりお金を払わなくなったら、後で記事を読む機会や必要があるときにフリーライダーとしてコンテンツを利用することになる。こういうことに後ろめたさはないかと言えば、もちろん記事ごとに払うという方式でも構わないが、そうすると読む価値があるかどうかもわからないのに paywall を突破するだけのためにお金を払うというのも困る。なので、できれば Aeon は本来は「購読」ではなく「寄付」という体裁でお金を集めている非営利団体であるから、読んだ記事の末尾に論説ごとに寄付できる少額決済の手段があればいいなと思う。それなら、安心して購読をやめられる。

さてしかし、それよりも重要なのは、この Aeon は哲学に関連する記事が多いオンライン・メディアなのだけど、哲学に携わっているからといって「哲学」の記事だとか「哲学っぽい」記事を率先して、毎日のように読むか、読むべきかと言われても、そんなことは自明ではない。それは、科学哲学を専攻しているからといって進化論に興味があるとは限らないとか、現象学を専攻しているからといって(三村さんみたいに)プロレスが好きだとは限らないとか、フランス思想を専攻しているからといって左翼だとは限らないとか、そういう話でもある。正直、有能なはずの科学哲学プロパーのみなさん(「諸兄」というのは性差別語なので使わない。ちなみに僕は「言葉狩り支持者」だ。言葉狩りしたくらいで何かが表現できなくなるなんてのは、そいつが物書きや文学者として無能だからである)ならお分かりかと思うが、世の中に出回っている「いかにも哲学っぽい話題」とか「いかにも哲学っぽい議論」なんてものの大半は、僕のように why there is something rather than nothing のような問い(存在論的差異を理解していれば、something と nothing の対比なんて実は問いの本質ではないのだから、この表現は不適切であるとしか言いようがないわけだが)に関心を持ち続けているような者からすれば、はっきり言って「カス」みたいなものばかりである。同じく、巷に出回っている、教科書的な哲学史を彩る派手な論争やジャーゴンで演出されている通俗本に描かれていることがらにしたって、枝葉の話ばかりだ。

恐らくだが、この国の未熟な出版・編集関係者だけでなく、これは他の国でも言えることだろうと思うのだが、どうやら学問の入門書というものを書く場合に、色々な話題や色々な切り口を可能な限り列挙して並べておくと、そのどれかに誰かの関心や興味がマッチするはずだという、「延縄漁方式」が良いと本気で思ってるらしいのだ。これは、たぶん明治時代などのエリート教育を前提に書かれた、これはこれで不親切極まりない入門書や教科書の権威主義に対する、戦後民主主義的な反省として、もちろんインチキ左翼が多い日本の出版社では「民主的」な啓蒙のスタンスとして積極的あるいは脊髄反射的に採用されていった末のことなのだろう。よって、世俗的な話題でもなんでも幅広く取り上げるのが啓蒙やアウトリーチの「良い」方針であるからして、ジャズ音楽の分析哲学だの、歌舞伎の現象学だの、オブジェクト指向の実在論だの(ああ、ギャグだと思ったら、システム開発もできないくせにガチでこういうことを言ってる連中がいたな)という本を出せば、誰かが読んでコミットしてくれるはずだという、馬鹿な思い込みが蔓延しているわけである。僕は、こんなアプローチは全く信用していないので、いま制作している科学哲学のテキストは、もちろん表紙にビキニ・アーマーを装着した女騎士のイラストなんて描かないし、内容においても色々な話題や色々なアプローチのカタログにして延縄漁をやるつもりもない。というか、必要に応じて色々な話題がコラムや本文の事例として出てくるとしても、それは書いている者の教養の範囲で紹介されるわけなのであって、「こういう人にはこういう話題を」などという、実は差別的な計算などで紹介するものではないのだ。

話題をもとに戻すと、いまのところ Aeon は記事ごとの寄付という仕組みは導入していないので、購読を続けるかやめるかの二者択一しか無い。すると、$5 と言っても、このご時世ですら給料がぜんぜん上がらない中小企業の一員としては、記事を現に読んでいない以上は浪費と言ってもいいし、「谷町」なんて言ってるほど浪費の余裕があるわけでもない。それに、どのみち購読するなら The Atlantic の方が読みたい記事は多いんだよね。ただ、あっちは年間購読しかできないので、いちどに支払う金額、つまり月次のキャッシュフローへのインパクトが多いという問題があったわけだ。でも、それもクレジット・カードで決済すればいい(サブスクの月額支払とリボ払いがごちゃごちゃになるので、慎重に利用しないといけないと思うが)。

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