Scribble at 2024-05-31 10:21:32 Last modified: 2024-05-31 18:24:02
聞いたところでは、大規模な文書共有サイト(要するに海賊サイト)である z-library が FBI によって占拠されたらしく、フロント・ページにはアクセスできるようだが、そこから先へは進めなくなっているという。これは、他のサイトでも似たような経緯を辿っているため、もちろん海賊サイトであれば同じ結末に至ることは誰でも想像できるわけなので、問題は時間だけであった。
このようなことは、ストレージが大容量で高密度になると、モグラ叩きとして更に激しくなってくる。たいていの場合、FBI に DNS なりドメインを差し押さえられるだけでは済まないので(それだけならドメインを放棄して別のドメインをロシアの企業などから取得して、DNS を切り替えたらいいだけだからだ)、もちろんサーバも差し押さえの対象になる。よって、いまのところ最も(或る意味で逆に)安全な運用方法は、バックエンドつまりはデータベース・サーバやファイル・サーバをロシアや北朝鮮に置いて、DNS とネットワーク接続というレイヤーだけで勝負することだろう。
ただ、このようなことを FBI ともども既存の大手出版社がどれほど非難しようと、学術研究の趨勢としてはコストに見合うかどうかは疑わしい。既に open science のコンセプトが浸透しつつあって、とりわけ機械学習の分野などでは、プレプリント・サーバである筈の arXiv で公開される論説が、公式のジャーナルに掲載されるクローズドな論文よりも、学界だけでなくビジネスにも大きなインパクトを与えるようになっているからだ。もちろん、すべての分野で今後はこうなると言いたいわけでもなければ、こうなる「べき」だと言いたいわけでもないが、少なくとも情報科学に関連して科学哲学をやろうという学生は、ACM や Elsevier の雑誌に掲載される論文を大学の端末で眺めているだけでは済まない時代に入っているという自覚が必要だ。
もちろん、オープン・アクセスの論文やプレプリントだけを読んでいればいいわけでもないのは分かるとしても、もう一つの常識として言えば、「読書が哲学の必要条件か」と言われて臆面もなくイエスと言ってのけるプロパーはいまい(いてもいいが、それを社会科学的に精密なコミュニケーションや知識工学のモデルとして論証できるだけの知見をもっている科学哲学者は、僕自身も含めてこの世界には一人もいないと思うね)。したがって、どこかで線引きなり妥協なりが必要であることは言うまでもない。そして、それはヒトの有限な能力ゆえであると言ってもいいわけだが、やはり一定の「哲学的な」議論を支えにしたいものだと思う。こういうことを必要に応じてメタ議論として展開できてこそ、寮とかで学生が喋ってるレベルを越えた哲学の議論ができると思うのだが、この国にこういうメタ議論をした形跡のある人がどれほどいるんだろうと思わざるを得ないんだよね。金持ち小僧が洋書を自宅にこもって乱読したていどでは、底が知れているとしか思えない。