2019年07月23日 に初出の投稿

Last modified: 2019-07-23 11:26:16

Who Pays Writers?

3,000 words の記事で 1 word あたり $0.55 だから、3,000 words ならそのまま $1,650 つまり 18 万円弱といったところだ。日本で主婦や学生が夥しい数の自称メディアに書いているコタツ記事は、words という単位で数えているわけではないが、僕が所属する会社で発注している金額だと1本の記事で1万円に届かない。これでも、たぶん都内の DeNA やサイバーエージェントなどを始めとするネット・チンピラどもに比べたら高い方だと思う。なにせ、「ライター」を名乗ってる連中だって、それなりのスキルがあるなら記事のアウトラインくらい自動出力してるわけで(ニューズ記事を生成したり要約を自動出力するサービスなんて10年くらい前からある。テクノロジー関連のメディアに露出しない B2B の事業だから多くの人は知らないだけだ)、たぶんアメリカでも Aeon や The Atlantic のようなメジャーどころでなければ、同じようなコタツ記事が量産されている筈だ。しかも、その多くが無自覚かつライトウェイトなヘイトになっていたりする。これは、何年か前にマイクロソフトが Twitter で実証してしまった。

「良い記事」が何であるかはともかく、そして自動出力や素人のコタツ記事は読むに値しないクォリティであり排斥すべきであるという前提に立てば、ライターには妥当な対価を支払って読むに値する記事を書いてもらうのが望ましい。そこで問題になるのは、第一に、メディアどうしが競合していてライターの奪い合いになること。第二に、読むに値する記事を書くには時間がかかるということ。第三に、読むに値する記事を掲載したからといって儲かるとは限らないということだ。たいていのメディアは、初志がどれほど高いものであろうと、これらの要因で収益構造を維持するのが難しいと言える。それゆえ、良い悪いはともかくとして、かつての日本における新聞のようにコモディティ化するための色々な「仕掛け」(広告代理店の三下ディレクターが大好きな言葉だ)を作り上げようとする。

そういう読むに値する記事は、僕らエンド・ユーザは代金を支払って読む《べき》なのか。これは、もちろんメディアの収益構造なりビジネス・モデルによって決まるのであり、消費者が決めることではない。消費者は、あくまでも選択するだけである。ただし、自由経済の特徴として、色々なビジネス・モデルが競合するため、有償サービスのメディアもあれば広告収入で無償のコンテンツを提供するメディアもあるし、フリーミアムのような複合的なモデルのメディアもある。もちろん、或る特定のメディアの記事を読みたいのに、そのメディアは特定の収益構造で運営されているがゆえに選択の余地がないという問題はある。例えば、僕は The Atlantic の記事を幾つか無償で読んでいて、雑誌媒体の記事も読みたいと思っている。雑誌(デジタル版のアクセス権を含む)の年間購読料金は $60 つまり約 6,500 円で、この値段はいいとしても、僕は情報セキュリティの実務家として、あるいはそういう事情なしでも一人の社会人としてクレジット・カードを作らない方針なので、The Atlantic のサイトで決済できない。国内の代行業者を使うと、最低でも1万円、高いところだと2万円もかかるので、これはいくらなんでも払えない。

しかし、基本的なことだが、The Atlantic というメディア一つを購読して読めないからといって、何か宇宙の本質を知らないまま死んでしまうといった知性の問題としての巨大なリスクなど、この世に存在するどんな本や記事にもない。或る哲学書を読まなかったからといって不幸な人生を送ったなどという、センチメンタリズムとしか言いようがない御伽話(読書や情報収集における「青い鳥症候群」ないしは、僕の言い回しでは「非科学的実在論」)を想定してメディアや書籍の重要性を語るのは、傲慢あるいは欺瞞でしかない。僕に言わせれば、そんなことすら理解しないでものを言うのは、非難に値する知的不誠実さである。

  1. もっと新しいノート <<
  2. >> もっと古いノート

冒頭に戻る


※ 以下の SNS 共有ボタンは JavaScript を使っておらず、ボタンを押すまでは SNS サイトと全く通信しません。

Twitter Facebook