2017年04月26日09時46分 に初出の投稿

河本孝之Takayuki Kawamoto

Last modified: 2017-04-26 09:46:24

On the Justification of Deduction and Induction

こういうテーマって古典的ではあるけれど、日本の研究者が書いてる論文を見たことがないんだよね。いや、大森さんとか村上さんがマイナーなアンソロジーに書いてるかもしれないけれど、少なくとも僕が大学院に在籍していた 1990 年代の後半においては、このようなテーマは "big question" だと言って、そもそも一本の論文にタイトルをつけて扱うようなものではないという雰囲気があった。

つまり、the justification of induction といった話題を真正面から取り上げるプロパーがいなくて、英米の業界事情を斜に構えて眺める印象批評しかないんじゃないかという話は、少しでも分析哲学や科学哲学の国内の業績を眺めたことがあれば、学部生でも実感できることじゃないかと思う。確かに、彼らは色々なテーマを色々なやり方で論じてはいる。でも、そのバックグラウンドとして基礎的な概念や古典的な業績への理解と、一定程度の議論や考察の蓄積があった上で論じているのだと思える確証が文章からまるで感じられないんだよね。それこそ、お手軽な通俗書でざっと哲学史をなぞっただけのアマチュアが、いま世に出ている学術論文を幾つか読んで書いた感想文といった風情しかない。その背後に、同じテーマを同僚と何百時間だけ議論したのかとか、そのテーマに関わる論点をどのていど押さえているのかとか、そういうまさに「論理的な構築」の力が全く伝わってこない。そして、それは単に個々の研究者の「お勉強」によって成し遂げられることではなく、学界として big question にも取り組むということが当たり前のように推奨されていなくてはいけないのだと思う。そうすることで、一定の議論や研究成果の蓄積があれば、たとえば昨今の因果推論や統計学のプチブームにも対応できる。何も哲学者だからといって、大方の議論が出尽くしたところに勿体ぶって登場し、深遠で薀蓄のある「まとめ記事」を投げつけたり、あるいはそれまでの議論を概念的に卓袱台返しするようなエンターテインメントなどやらなくてもいい。

科学哲学のプロパーでも時勢に合わせた発言や論評ができるはずで、100年の歴史を経てからでないと何とも言えないみたいなのは単なる intellectual coward にすぎない。こういう蓄積を学界全体で推進しておけば可能ではないのか。多くの人は(プロパーですら)哲学プロパーの時勢に合わせた発言というのを、属人的な思想というか、ただの政治的センスに頼ったアドリブみたいなものだと思い込んでるわけで、だから迂闊に言えないと思ってるんじゃないか。しかし、そんなものは出版・マスコミの描いてきた虚像にすぎないし、アウトリーチ、あるいはプロパーの社会的貢献なりコミットメントというものは、そんなことだけを意味しているわけではない。欧米の哲学プロパーが政治から他の学科のテーマにまで積極的にコミットしていけるのは、恐らくは凄く単純な話なのだ。つまり、学術活動の成果という蓄積があるからにすぎず、要は日本のプロパーはそれをやってすらいないのである。いまだに京都学派のような人々がサロンでやってた茶飲み話を「学際的」だの何だのと言って語り継ぐしか能がないようでは、今後も大した業績は期待できまい。

もちろん、同情するべき余地はたくさんある。昨今の因果関係や因果推論を扱う統計学、経済学、疫学の通俗書が示すように、こういう基礎的な概念は昔から多くの学科において一定の関心を集めてきたし、それなりに話題として取り上げてよい応用が見つかれば、こうして一般書でも扱われるようになる。日本で、統計学やベイズ主義について哲学者として一定の成果を挙げていると見做せるのは、恐らく内井さん、出口さん、松王さんの三人だし、特に因果関係との関りでは一ノ瀬さんも加えてよいだろう。もちろん一ノ瀬さんは「因果三部作」と呼ばれる成果を出しているのでよいとしても、他の方々はせいぜい翻訳が出ているくらいで、統計・確率の哲学を取り上げたご自身の研究成果を著作物としては出せていない(もちろん、出したくても出せないのか出す気がないのかは別の話だが)。これは、単純に言って大学への助成金や科研費を投じている国家としての投資を彼らの何本かの論文や学生への教育としてしか「回収」できていないということなので、社会的リソースの効用として評定するとコストパフォーマンスが悪すぎると言わざるをえない。教育にも大きな効用があるのは認めるが、やはり大学の教員は研究成果を出してこそ他人にものを講じる資格があるからだ。

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